お泊りのおさそい?
『もしもし、朝城ですが』
「あ、結子さん」
突然かかってきた電話に、汰絽は笑顔を浮かべた。
電話の向こうは、結之の母、結子。
主婦のような会話を少しだけ交わしながら、汰絽は笑顔を浮かべる。
今日は金曜日で、夕食を終えた３人はリビングでゆっくりくつろいでいた。
風太とむくは、楽しそうな汰絽を眺めている。
『…あ、でね。突然電話したのは、むくちゃんのことなんだけど』
「はい?」
『あのね、明日から3連休でしょ? むくちゃん、家にお泊り来ないかお誘いしようと思って』
「お、お泊り、ですか?」
突然の申し出に汰絽は目をぱちくりとさせた。
ちらりとむくを見て、それから風太を見る。
『良い思い出作りができるんじゃないかなって思ってね』
「むくに聞いてみますね」
『ありがとう。いきなりだったし、お泊りとか心配かなって思ってたから、無理かと思っていたわ』
「そんな…。僕も、むくをどこかに連れて行けるわけじゃないんで…助かります」
汰絽の会話を聞いていたのか、むくがそわそわし始めていた。
そんな可愛らしい様子に風太は思わず笑う。
それから、むくの頭を撫でて、もうちょっと我慢な、と声をかければむくはにまにまし始めた。
膝の上に抱きあげて、テレビに視線を移すと、デート特集…なんて番組が始まった。
むくは絵本を手にそわそわしながら読み始めて、大丈夫かな、と風太は番組をそのまま見続けた。
「むーく、ゆうちゃん家、お泊りしたい?」
「したーいッ!!」
「たろがいなくても泣かない?」
「泣かない! むくもうさんさい」
「そう? …じゃあ、悲しくなったらお電話借りて、たろに電話してね」
「うん!! いい?」
電話がいったん終わったのか、風太の隣に汰絽がしゃがんできた。
それからむくの頭を撫でながら、楽しそうに話している。
むくの瞳がきらきらと輝いていて、汰絽は楽しそうに笑った。
風太もそんなふたりの様子を眺めて、心が温かくなる。
「風太さん、いいですか?」
「あぁ」
「じゃあ、むく。結子さんにお電話してくるね。結子さん、明日迎えに来るって」
「わーい!!」
むくが風太の膝から下りてぴょんぴょんとジャンプする。
嬉しそうにはしゃぐ様子のむくとは違って、電話の方を見つめた汰絽の表情が少し不安そうだった。
「むく、帰りたくなったって泣くなよ?」
「なかないもん!」
「そっか。…たろ、電話してきな」
「はい」
風太に促され、電話に向かう。
ちらりと汰絽を見てから、テレビに視線を戻した。
デート特集を眺めていると、丁度隣町が映った。
隣町はよく足を伸ばしていたが、特集していた場所は初めてみる場所。
テレビをまじまじと見はじめた。
―…デート、か
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