意外な一面ある日、いつものようにあたしはアイツの所に行く。
『みーなみさわー!お菓子ちょーだい!』
「お前…。またかよ」
『いえす!』
「やめろひらがな発音」
ぺし、と頭を軽く叩かれたが、痛みは全くなかった。
そこらへんは力加減をしてくれてるんだろう。
流石は南沢、優しい!
「ほらよ」
『さんきゅー!借りはいつか返す!』
とか言ってまったく返した覚えはないんだけど。
それを南沢も分かっているのか、手をひらひらさせてため息を吐いた。
「期待してねーから安心しろ」
『じゃあ返さなくてもいい?』
「ふざけんな」
今度はちょっと強めに叩かれたから痛かった。
前言撤回、優しくない。
こいつは外道だ、鬼畜野郎だ!
『だって思いつかないし』
「………あー、なら俺から一つ」
『何?貞操とか関係するのは駄目だよ?』
「何で菓子の見返りが貞操なんだよ」
違う、とまたため息を吐いた南沢。
幸せ逃げまくりだなーとか思いつつ、言葉を待つ。
数十秒の沈黙の後、南沢は漸く次の言葉を紡いだ。
「いい加減、名前で呼べ。もう三年も一緒にいるんだぞ?」
『は?何なの、そんなことでいいの?』
「お前にとっては軽くても、俺にとっては重要なんだよ」
『ふーん…。まあいいよ』
軽く頷くと南さ……篤志は、嬉しそうに破顔した。
あまり見ない、とても嬉しそうな笑顔。
何なの、そんなに自分の名前が好きなの?
……意外すぎる。
篤志の意外な一面を知った、とある一日。
20120120 やく
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