おねだり上手
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「キスしてほしいな」

『何、急に?』


訝しげに風介を見れば真剣な表情で、真面目に言っていることが分かった。

しかしだからといってそんな自分からキスなんて恥ずかしいことできない。


『ダメ、恥ずかしい。それに、いつもは勝手に自分からしてくるじゃない』

「君からしてほしいんだ」


透き通るような瞳に見つめられて、私は何も言えなくなってしまう。

視線を逸らしてなんとか誤魔化すと、手に冷たい風介の指が触れた。

そしてそのまま手を握られる。

その様子が気になって私は彼の方を見てしまった。

そこには、愁いを帯びた瞳の風介がいた。


「ダメ、かい?」

『…い、一回だけなら』


あんな悲しそうな表情をした貴方が聞いてきたら、断れるはずなんてないよ…。

背伸びをしながら目を閉じてそっとキスをした。

目を開けると満足そうな風介がいて、あの笑顔は偽者だったのだと気付かされた。


『演技するなんてひどい』

「騙されるなまえが悪いのさ」


本当に、おねだりが上手な彼氏だ。

ま、そんな彼が好きなのだけれど。


2011 09/30 やく


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