少年Hの一目惚れ
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とある日の昼下がり、少女は道を歩いていた。

大都会の大きな道路を、モデルのような歩き方で。

傍にパートナーと思われるイーブイを引き連れ、茶色の絹のような長い髪を靡かせて少女は歩いていた。

少女の顔は人形のように整っており、翡翠のような目は少し釣りあがっていて凛とした雰囲気を醸し出している。

そんな少女に話し掛ける人間は多く、様々な言葉で彼女を惑わそうとした。

けれど少女は柳眉を寄せて言うのだ。


『私に勝ってからにして』


挑む者は全て膝をつき、相手のポケモンは皆倒れた。

それほどまでに少女は強かったのだ。

敗者を見てため息を吐く少女は再び歩き出す。


「ねえ、俺とポケモンバトルしない?」

『……貴方は、強いのかしら』

「これでも一応はチャンピオンだけど、どう?」

『へぇ…』


この時初めて少女の唇が歪んだ。

目も細められ、相棒の名を呼んで自分の前に立たせる。

話し掛けた少年、ヒビキもボールを取り出して空へ投げた。


『まあ、善戦した方かしら。貴方もレッド兄さんみたいにシロガネやまに篭ったらどうかしら?きっと強くなるわよ』


己の元に戻ってきたイーブイの頭を撫でながら微かに笑って言う少女の台詞の一端に、ヒビキは違和感を覚え顔を上げた。

レッド、そしてシロガネやま。

この二つから導き出されるのは勿論、伝説のトレーナーであるマサラタウンのレッドである。


「え、レッドさんを知って…」

『ご近所さんだから。それじゃあ、私そろそろ兄さんにお弁当持って行かなきゃいけないから』


髪を翻して去っていく少女を、ヒビキは少し頬を赤らめて見つめていた。

所詮一目惚れ、というやつだ。

そして彼は後に知ることとなる。

少女がトキワジムのジムリーダーであるグリーンの妹であること。

彼女自身もワタルを完膚なきまでに倒したチャンピオンであること。

そして、己がよく知るレッドの一番弟子であり愛弟子であるということを。


少年Hの一目惚れ


2011 12/03 やく


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