紅葉の下で紅葉が色付く季節は、エンジュシティが一番だと思う。
秋の色に染まる葉は綺麗で心を癒してくれますし、エンジュシティは流石古の都というべきか、美味しいものが多い。
それに、秋になると彼が来るから。
「よ、なまえ!」
『グリーンさん。今年も観光ですか?』
「まあな。カントーはここまで綺麗に紅葉が見れねえんだよ」
そう言ってはにかむグリーンさん。
彼は毎年観光にエンジュシティに来て、お土産と紅葉を持ってカントーへと帰る。
滞在する期間は少しだけだけれど、一年の内で私の心が一番満たされるのはこの期間だ。
「そういやさ、俺この前ジムリーダーになったんだぜ」
『おめでとうございます。カントーの空きはトキワシティだけですから、トキワジムですか?』
「まあな。結構な大役だろ?」
『そうですね。カントー最後の砦ですから』
ジム規定でトキワジムはカントーのジムの中で一番レベルの高いジムだし、何より四天王やチャンピオンが待ち構えるリーグに近いところにある。
だから、大抵のトレーナーはトキワジムを最後に選ぶのだ。
そんな所のジムリーダーになるなんて、凄いの一言しか思い浮かばない。
「……だからさ、ここにはあまり来れないかもしれないんだ。ジョウトとカントーは遠いからな」
『そう、ですか…』
心の中に重いものが圧し掛かった。
ただでさえ一年に一度しか会えなかったのに、もっと会える頻度が減る。
それだけで、私は自分の体が引き裂かれたような痛みを心に感じた。
「あー、あのな?なまえさえ良ければなんだけど、俺と一緒に、来てくれないか?」
不安そうな面持ちで、照れたように頬を染めて、彼は静かにそう言った。
彼の言うことを理解できない程私は子供ではない。
だから顔を真っ赤にして、顔を手で覆って慌ててしまった。
「い、嫌ならいいんだぞ!?なるべく時間割いて来るようにするし!」
『いえ…。行きます。一緒に行かせてください。私、グリーンさんが大好きですから』
嬉しすぎて涙が出てきて、でも笑わずにはいられない。
グリーンさんは紅葉に負けないくらい綺麗に笑って、私の手を取って大きな手で包み込んだ。
木から離れた紅葉が、祝福するかのように空に舞い上がっていた。
紅葉の下で2011 11/19 やく
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