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そのシャツを見た時、彼を思い出した。
夕暮れの光が差す店内で、そのシャツについている貝のボタンが光に照らされ、きらめいていた。
彼がよく着ていた、兄からもらったという白い綿のシャツ。そのシャツに付いていたのは、同じく白い貝ボタン。記憶の中のそのボタンが、眼前のそれと同じようにきらめいていたのを思い出す。

中学生が身につけるものにしては変わっていて、加えて彼がいつも着るものとも雰囲気が違っていたから、今でもよく印象に残っている。
それは彼によく似合っていて、彼をより一層魅力的に見せた。

すべすべとした、つややかに光るボタン。かつて、それに一つずつ手をかけて、愛しあった。
そっと目の前のそれに指を滑らせる。かつての記憶と同じ感触が指をくすぐり、心がずきりとした。だから、すぐに手を離した。

彼は今でもあの貝ボタンのシャツを持っているのだろうか。
ふとそんな考えがよぎったが、そんなことある訳ないとすぐに気づいた。自分も、彼も、あの頃とは比べ物にならないくらい大人になった。もう着られなくなったものをいつまでもとっておくはずがない。


あのきらめくボタンは、もうどこにもない。

そんなことだけで、こんなに哀しくなるなんて。
馬鹿みたいだと自分を笑って、自分を誤魔化した。目の前の貝ボタンを見つめ、さよならと小さく呟く。
それはそのボタンに対してか、彼に対してか、それとも、かつての自分たちに対してか。

最後にもう一度だけ、あの貝ボタンにそっと触れた。



お題「ボタン」
2011.2.22


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