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月が出ていた。

「月が綺麗ですね」
ふと遊び心でそう呟いてみたが、英二は意味を知らないようで、不思議そうに俺を見つめていた。
「どういうこと?」
「分からなかったら別にいいよ」
俺がそう返すと英二は膨れたが、しばらくするとまたいつもの調子に戻った。

「もうすぐ全国だね」
緑に生い茂る並木道を、二人で歩く。今日も二人で反省会をした。試合に負けたわけではなく、これからの試合に向けて俺たちのダブルスを強化しようと、小さなことでも話し合いたいと英二が言い出したのだ。

本当は英二に言わなきゃいけないことがあるのに。

「絶対絶対、全国ダブルスナンバー1だからな!」
英二は別れ道でそう言うと、背を向けて歩いていく。

ただ俺は英二の小さくなっていく背中を見続けていた。


ごめん、英二。本当に、本当に、ごめん。
月の照らす並木道を歩きながら、ずっと言おうと思っていたのに。



「夜の並木道」で登場人物が「約束を破る」「月」がでてくるお題


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