All of you



All of you

「ねえ、大石」
英二の声に振り向くと、ほい、といきなり綿棒を渡された。そのまま、床にごろんと横になる。そして、
「ん」
と一言だけで促される。……一言というよりも、一音と言った方が正しいが。
英二の要求は分かっている。耳かきをしろ、だ。

いつからだったか、俺はしばしば英二の耳掃除をさせられるようになった。
今でこそ、俺と英二は所謂「オツキアイ」というものをしているのだが、初めて頼まれた時はまだ付き合う前であった。普通、ただの友達同士ですることではない(と俺は思っていた)ので、頼まれた時はひどく驚いてしまったのだが、英二は至極当然のような、何一つ可笑しなことではないと思っているような顔をしており、思わず俺も頷いてしまったのだった。
……多分、俺の感覚の方が正常、だと思う。

耳かき自体にも、このやりとりにも、もう随分と慣れてしまったもので、俺は特に何も言わず英二の耳を掃除し始めた。「痛くないか」と途中で確認をすると、英二も「全然」と答える。このやりとりもまた、今までに何度も繰り返してきたものだ。
「反対」
と俺が言い、英二がこちら側に向き直る。俺はまた綿棒を手にすると、英二の耳へと手を伸ばした。
「痛くない?」
「うん、平気平気」
そう言う英二の顔はとても穏やかで、気持ち良さそうで、全幅の信頼を寄せられていることが分かる。それが少しくすぐったいようであり、また幸せでもあった。

「終わったよ」
そう言い手を離すと、英二は起き上がって、「サンキュー」と微笑んだ。そして俺の隣に座り、そのまま雑誌を読み始める。これが、いつもの一連の流れ。
何気なく始まった俺たちの習慣だったが、英二が頼んだ相手が俺で、本当に良かったと思う。
そんなことを考えているとばれたら、きっとからかわれるから言わないけれど。

そっと英二の横顔を眺める。さっきまで、俺が触っていた耳が見えた。
そして、触れたいと思った。



「わっ何?」
耳に唇を寄せると、英二が驚いて耳を押さえた。
「ん?可愛い耳だなと思って」
特に理由もなかったが何となくそう口にしたら、英二がいきなり吹き出した。
「何だそれ、大石ってば耳フェチだったわけ?」
笑いながら、英二が聞いた。
「……そういう訳でもないんだけど」
英二に尋ねられて、自分で考えてみた。……多分、耳に特別な拘りがある訳ではないと思う。
「ふーん」
「英二のだから、だよ」



そう、これが答えだ。
英二の耳を、そっと指でなぞる。そのまま俺たちはキスをした。
英二の耳も、柔らかい唇も、つるりとしたおでこも、足の指の形も、つむじも、肩甲骨のきれいな背中も、……何もかもが、おかしいくらい飽きない。愛しくて、たまらない。
それはきっとこれからも変わらない。
そんな確信があった。

俺はずっと英二の全てに囚われたまま、生きていく。英二と一緒に。


「なーんか気障な台詞」
くちづけの後、そう英二がはにかんだ。
うん。その笑顔も、好きだ。



そんなことを言うと、きっとからかわれるから言わないけれど。



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