こぐま座流星群



こぐま座流星群

星が流れるのを見たいと英二が言った。
「今日流星群が見られるんだって!」
今朝のニュースで目にしたと、英二は瞳を輝かせて俺に言った。しかし、俺が今回の流星群はそこまでたくさん星が流れる訳ではないと説明すると、英二の顔はみるみるうちに曇ってしまった。
どうやら、つい先日の「ふたご座流星群」は、いつのまにか寝てしまい、見逃してしまったらしい。
それじゃあ見てみようかと俺が提案すると、今度はぱっと明るい表情に変わる。
泣いた烏がもう笑った。
小さい頃、親に笑われたそんな言葉が思い出される。(実際英二は泣いてなかったが)

流星群の極大は五時。
昨晩、心配する親を「もう中学生だから」と言い説得した。

早く天体望遠鏡が欲しいな。
そうすれば、俺の部屋でも見られるのに。

十二月二十三日、午前四時。
水筒に入れた熱いコーヒーと、ブランケットと、カイロを入れた鞄を背負い、コンテナのある丘へと向かう。
コンテナに上って暫く待っていると、英二がやってきた。英二が上るのに手を貸すと、二人でいつものように座り込み、北の空を眺めた。
俺は英二にカイロを手渡し、ブランケットの半分を英二に被せた。
「流れ星、見えるかな?」
英二が言った。寒さで、鼻の先が少し赤くなってる。
「見えるといいな」
そう返したが、あまり期待はしていなかった。
流星群について調べてみたが、大体一時間に二個程度しか流れないようだった。
突発的に予想より多く見られることもあるらしいが、それも稀なことだろう。
「こぐま座流星群って、かわいい名前だよね」
「そうだね」
「こぐまってことは、おおぐま座もあるの?」
「うん、あるよ」
「ふーん、じゃあこぐま座は大五郎の子どもだな」
英二がそう納得したように言うと、俺たちは黙り込んだ。


流れ星は見えない。
英二も初めは夜空に集中していたが、ひどく眠そうで、時折うとうとしては頭を振って目を覚まし、夜空を見続けようとしていた。
水筒にコーヒーは失敗だった。苦くて英二は飲めなかったのだ。
次に来る時には、他の飲み物にしなければ。そうだ、ココアにしよう。

その時、弱々しい光が、空から落ちてくるのが見えた。
「英二、流れ星!」
俺は咄嗟にそう叫んだが、英二は眠くて集中できていなかったのか、それを見逃したようだった。
それから暫く、英二は必死に空を見つめていたが、結局もう流れ星は見られなかった。
午前六時四十七分、日が昇り始める。


明けていく空の下、俺たちは帰り道を歩き始めた。
英二は俯いたまま何も言わない。
「また今度、見に来よう。また一月に、他の流星群が見られるよ」
俺は必死に英二を励まそうとした。しかし、英二は、
「流れ星、見たかった」
とぽつりと言うと、また黙り込んだ。
俺は歩みを止め、口を開く。
「俺たちには見えないけど、星は毎日たくさん流れてるんだ」


「今もきっと、流れているよ」
俺がそう言うと、英二も歩みを止めて、空を見上げた。


見えない星が流れ続ける、藍色の空。


「ありがとう、大石」
英二がそう口にしてから、俺たちは何も言わなかった。
何も言えなかった。

今しか感じることのできない何かがそこにはあった。




俺たちはきっと、恋をしていた。



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