電話がなっている



電話がなっている

電話がなっている。


大石はその音を聞くと動きを止め、意識を俺から音の鳴る方へと移した。大石の携帯だ。

嫌だよ、大石。
今は俺を見てて。俺だけに夢中になって。
今だけでいいから。

俺は声を上げる。まるで女みたいなはしたない声。
それを聞いて大石は愉しそうに口を歪める。
「なに、英二?焦らされて感じちゃったの?」
「あっ……おお、いし……」
瞬きをすると、目の端から涙が一筋こぼれるのが分かった。大石は唇を寄せてそれを吸い取る。
それだけなのに、ひどく感じてしまう。


電話がなっている。
大石は再び動きを再開させた。俺はまた声を上げる。
電話は委員会からの急ぎの連絡かもしれない。手塚からのテニス部についての相談かもしれない。
 
でも今はそんなことどうだっていい。

息も絶え絶えになりながら、大石を呼んだ。
「なに、英二?」
「大石……大石……」
「英二」
名前を呼んで。俺だけを見て。
今だけは。


電話がなっている。
俺は遠くの世界からその音を聞く。
大石の掌が俺の身体を這う。俺のなかが擦られる。声が掠れる。大石の背中に爪を立てる。大石が俺の肌を吸う。
もう、何も分からない。何も考えられない。
「英二、目、開けて」
言われた通り目を開けると大石が俺を見ていた。俺だけを見ていた。
「愛してる」
俺も、愛してる。俺も、お前だけを見ている。
「俺も……愛してる、大石」
俺たちは唇を寄せ合ってやわらかいキスをした。
もう、何も見えない。







電話が、なり止んだ。



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