新婚さんごっこ



新婚さんごっこ

大石が仕事から帰宅しドアを開けると、いつもとは違うを姿をした恋人が、彼の目に飛び込んできた。

「……何してるの、英二?」
大石は後ろ手にドアを閉め、鍵を掛けると、例の恋人に尋ねてみた。
大石の恋人である菊丸英二は、ふふんと笑うと、身軽にふわりと一回りをする。
「似合うー?大石ー?」
英二は、部屋着として白のパーカーと、黒地に赤のラインの入ったジャージを身に着けていた。寒いのか厚手の靴下を履いている。しかしここまでは、いつもと何ら変わらない。
なんと英二はその普段着の上から、フリルが存分にあしらわれたピンクのエプロンを身に着けていたのだった。

「似合う似合わないじゃなくて、どうしたの、それ?コスプレ?」
質問を質問で返してきた英二に、大石は半ば呆れ気味にため息をつくと、負けじと質問を返した。
「大石に質問です!今日はいったい何の日でしょう?」
そんな大石に対し英二はまたもや質問を投げ返す。
……。駄目だ、全く会話のキャッチボールができていない。大石は少しばかり頭痛を覚えた。
「えー!大石分かんないのー?」
「分からないよ。いったい何の日で、その格好はどうしたんだよ。一から教えてくれ」
「ジャンジャジャーン!なんと今日は、『いい夫婦の日』なのです!」
は?
大石の思考が一瞬止まる。
「今日職場の女の子たちが話してるの聞いて、そういえば、って思い出したんだ。だからー、せっかくだし『新婚さんごっこ』をしようと思って!」

相変わらず英二の発想は突飛である、と大石は実感した。
「そのエプロンはどうしたの?」
「今日定時であがって速攻でドンキに買いに行った!メイドさんもあったんだけどさ、やっぱ新婚さんといったらフリフリのエプロンじゃない?」
「新婚さんはメイド服なんか着てないし、そんなジャージで旦那さんを待たないと思うよ」
大石は冷静に英二にツッコミをいれる。
「というか、サイズはあるものなのか?」
英二は標準の男性よりもいくばくか背丈が大きいはずだ。女性用の衣装では丈が足りないだろう。
「うん、結構いっぱいあったよ。宴会用なんじゃない?」
と英二は答える。
確かに、宴会では若い男一同で芸をやらされることもあるだろう。この衣装はそういった用途で売られているもので、決して男同士で『新婚さんごっこ』とやらをするためのものではないはずだ。

「ていうかさー、大石反応薄くない?もっとノッてきてよ」
「ノれと言われても……」
「あっそうだ!肝心なセリフを忘れてた!」
英二はそう言うと、大石の首へと腕を伸ばし、絡めた。


「ご飯にする?お風呂にする?それとも、わ・た・し?」


大石が思っていたより、そのセリフは効いた。それはもう、抜群に効いた。
英二の突飛な行動もたまにはイイじゃないか!
大石はようやく気分がノッてきた。
英二の腰を抱き寄せ、唇を近付ける。
「……それはもちろん、えい……」
「あ、ダメダメ!待った!」
えいじ、と名前を全て言い終わる前に、当の本人からストップがかかった。
「せっかく作ったご飯が冷めちゃうから、また後でね」

……なんだよ、それ。
大石の気分はあっという間に萎えてしまった。
せっかく気分がノッていたのに。もう少しムードを考えてほしいものだ、と大石は心の中で文句を言う。
「今日はグラタンだよーん」
そのため、大石の腕からするりと抜け出した英二が楽しげにそう言っても、大石は、
「あ、そう」
とぶっきらぼうに返しただけだった。
そんな大石の様子を見て、流石にふざけすぎたと反省したのか、次に英二はこう言い出した。


「そんな怒んなって!……ご飯のあとはお風呂と俺、一緒に堪能させてやるから、さ」


大石という人間はかくも単純だったのか、その一言で彼の気分は急上昇する。
そして、トドメの一言。



「今夜はいっぱいサービスするから、優しくしてね」



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