未来への約束



未来への約束

随分と冷たくなってきた風を受けながら、俺は英二と帰路についていた。
「うわー、さっみぃ!」
英二はそう言うと肩をすくませ、ポケットに手を入れた。

「秋生まれだから寒い方が得意なんじゃなかったのか?」

英二は夏に暑さでだらけていて、俺が注意をした時に、
「俺は秋に生まれたから暑いの苦手なんだよー!早く冬になんないかなー?」
と、返してきた。しかし、英二は、
「あれ?そんなこと言ってたっけ?」
と知らん顔だ。すっかり忘れてしまったらしい。


英二には記憶のかけらも残っていないようだが、俺はその時のことをよく覚えていた。
『ああ、英二って秋に生まれたのか』
英二について、またひとつ知ることができた。
春からペアを組み始めた俺たちは、ぶつかり合うこともあったが、少しずつお互いを理解し始めていた。
そんな時期の出来事だった。

思えば、英二と出会ってからまだ一年もたっていないのに、随分とそばにいるのが当たり前になった気がする。


そんな時、どこからか陽気なメロディが聞こえた。


いーしやーきいもー、やきいもー


それを聞いた英二がすばやく反応する。
「大石!焼き芋だって!近いよ、探そう!」
英二はそう言い、俺を残して走り始めてしまった。
俺もすかさず英二を追う。

英二といると、こんなことが多い。
気まぐれで、突拍子もないことを言い出す英二を追いかける俺。

英二は次の角を右に曲がったところで俺を待っていた。
「大石!こっちこっち!せっかくだし焼き芋食べよーよ」
「今焼き芋なんか食べたら夕飯が食べれなくなるぞ」
「えー!大石のケチー!」
「……全く仕方ないな。それじゃあ……」
「じゃあはんぶんこならいい?ね、そうしようよ」

驚いた。
そう、最近こんなことも多いのだ。
英二と俺が、同じことを考えてる。

「おじちゃーん、焼き芋大ひとつくださーい!」
「ダメ。すいません、中ひとつでお願いします」
「ええー!」
「英二の家の人もご飯作って待っていてくれるんだろ?食べられなくなったらいけないよ」
「へいへーい、分かりましたー」

出会った当初は英二の行動にいつも振り回されていた気がするが、最近は俺も英二の扱い方に慣れてきたように思う。
英二は我が侭そうに見えるが、きちんと注意をすると意外と聞きわけが良い。

「はい、大石。はんぶんこ」
英二が焼き芋を半分に割って、俺に差しだした。
「ありがとう」

不思議だな。
最初、自分と正反対のタイプである英二とはあまり仲良くはならないだろうと思っていた。
それが今では、さも当たり前のようにお互いそばにいる。


来年も、再来年も、一緒にいるような気さえする。


「うーん!おいしー!やっぱり冬って焼き芋があるのがいいよなー」
確か夏は「夏ってかき氷があるのがいいよなー」と言っていたな。
別に突っ込まないけど。

「大石、次も焼き芋屋さん見かけたらまたはんぶんこしようなー!」
英二が俺に笑いかけた。


うん、そうだな。またしよう。
来年も、再来年も、もっと先も、また焼き芋をはんぶんこしよう。
きっと俺たちは、ずっと一緒にいるよ。


……なんて、な。
俺はちょっと笑って、ようやく焼き芋を口へと運んだ。



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