指を擦り抜ける



指を擦り抜ける

「ねー、大石って髪伸ばさないの?」
事が終わった後、ベッドでぐったりとしていた英二が急にそんなことを言い出した。
「どうした、急に」
ベッドに腰掛けていた俺は、ペットボトルの水を口に含む。冷たさが心地良い。
そのまま一口、二口と飲むと、英二は俺の質問には答えず、じっと俺を見ていた。
水が欲しいのかと思いきや、「なんか喉仏ってエロいよな」などと言い出した。

……さっきの話はどうしたんだよ。
ま、英二が突拍子もないことを言うのはいつものことか、と納得し、俺は英二の隣に再び潜り込んだ。
「だってお前結構髪型コロコロ変えてんじゃん」
確かに中等部入学当初はもっと髪を伸ばしていた。短くしたのは二年になってから。そして今の髪型になったのは更にその後だ。
さんざん「タマゴ」だの何だの言われ続けてきたが、今はこの髪型が俺のトレードマークみたいな感じになっていて、変えようとも思わない。もう中坊ではなくなるのだし、坊主頭も卒業時なのかもしれないが。

「英二は長い方がいいのか?」
「別にそういうことじゃないんだけどさー」
何だ、それなら変えても良かったのに。
「じゃあ何でそんなこと聞いたんだ?」
俺が再び尋ねると、英二はうーん、と呻いてごそごそと俺の胸元に頭を押し付けた。そして暫くの沈黙。

「なんかさー、お前よく俺の髪指で梳くじゃん」
英二はもごもごと呟くように再び話し始めた。
「うん」
「俺もやってみたいと思ったんだよね」
そう言うと英二は、顔を上げて照れたようにへへ、と笑った。
「まあ今の髪型もジョリジョリしててさわり心地良くて好きなんだけどな」
英二がおもむろに手を伸ばし俺の頭をガシガシと強く撫で始めた。
「ちょ、英二、止めろよ痛いって!」
「まあまあ、遠慮すんなってー。オラオラー!」
英二はもう完全にふざけ始めていた。
俺は何度か手を振り払ったが、英二はなおも俺の頭に手を伸ばし続けたため、結局は無理に英二の手首を捉えて止めさせることとなった。
何が面白いのか英二はまだ肩を震わせて笑いをこらえている。全く、仕方ない奴だな。


「ね、髪撫でてよ」
笑いが治まったらしい英二が上目遣いで俺の顔を覗き込んで言った。
「ほら、早くしてよ」
俺はそっと英二の髪に指先で触れる。英二の瞳が揺れる。そのまま指に髪を絡めて撫でる。英二が気持ち良さそうに目をつむる。英二の柔らかい髪が指を擦り抜ける感覚。その感覚が、「ああ、愛しいな」という気持ちで俺を満たしていく。


「ねーどんな感じがすんの?」
英二が目を閉じたまま尋ねた。
「好きだなって感じ」

英二は一瞬驚いたように目を開くと、すぐに破顔した。
「俺もおんなじだ。好きだなーって感じ。あと、すごく気持ちいい」
「それは良かった」

英二はまた気持ち良さそうに目を伏せた。
髪を伸ばしてみるのも悪くないかもしれないな、なんて思いながら、俺は髪が指を擦り抜ける感覚をいつまでも楽しんでいた。


prev next

 

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -