はつ恋



はつ恋

俺が大石のことを好きだと気がついたのは、今年の春の初めのことだ。
進級して二年生となったばかり。俺はわくわくした、何かが始まりそうな新しい気持ちで、朝練のために学校へと向かっていた。
その日は珍しく早く目が覚めたため、いつもよりのんびりと歩いていく。
何だか今日はいい日だな。ぽかぽか日差しはあたたかいし、空が一面真っ青だ。

こんな日は、大石に会いたい。

そんなことを思っていたら、なんと本当に角を曲がったところで大石に会ってしまった。
「おはよう英二。今日はずいぶんと早いじゃないか」
大石は目を細めて、俺に笑いかけた。
 
あ。本当に、大石だ。
 
その瞬間、どくん、と胸が音をたてた。耳に血が集まって、かーっと熱くなっていくのを感じる。
え?何で?会いたいと思った途端に会えたから、俺びっくりしたの?てゆーかなんでそもそも会いたいなんて思ったんだ、俺?

「ん?どうかしたのか、英二?」
黙ってしまった俺を、大石が怪訝そうな顔をして覗き込んだ。
うわ!近い!ヤバい!
「いや、何でもない!あはは、はははは……」
確実に不自然だと自分でも思ったが、笑ってごまかすしかなかった。大石も特に気には留めなかったようで、その日はそのまま一緒に学校へ行った。
……行った、はずだ。何せあまりのことに動揺してそれからのことをはっきり覚えていないのだ。

俺はその時に気づいてしまったんだ。
大石に会いたいと何気ない瞬間に思ってしまっていたこと、大石に会えるだけでこんなに嬉しいこと。

ああ、これは、恋だ。そう思った。……いや、これが恋だ、と思った。
恋愛はタイミングって言うけど、本当にそうだと俺は実感した。きっとあのタイミングで大石に会わなければ大石が好きなんて気づかなかっただろう。
気づいて良かったのか、それとも気づかなければ良かったのか、俺には分からない。
だって、俺も大石も男だし。どうしろっつーんだよ。
大石のことが好きになって、毎日いっぱい楽しくて、いっぱい嬉しいのも事実なのだけれど。
これから大石にどう接すればいいのだろうか。この恋はどう扱うべきなのだろうか。
俺は答えの出ない問に頭を悩ませ、今日もひとつ息を吐く。
 
でも、気づいちゃったもんは仕方ないのだ。

その日から俺は、大石のことを目で追うようになった。
クラスを横切る時、全校集会の時、火曜日の3時間目のグラウンド、部室に入った瞬間、俺は大石を瞬時に見つけだすことができた。
どんなにバカ騒ぎしてても、雑踏の中でも、大石の声がすると反射的に振り返ってしまうようになった。
不思議だな。世界の中から、大石の姿が、声が、切り取られて俺まで届くみたいだ。
いつでも大石を探してしまう。大石を見つけた瞬間どきっとする。目が合ったら、もっとする。話しかけられたときなんか、頭がいっぱいいっぱいになってなんて話していいか分からなくなってしまう。
もう重症だよ。
俺は、どうすればいいのかな。
そしてまた、本日ふたつめのため息を吐く。

「英二、最近何かあった?」
部活が終わった後、隣で着替えていた大石が急に尋ねてきて、俺の心臓は跳ね上がった。
ななな、何でー!もしや俺の気持ちバレちった?
「え、な、何で?」
「最近元気ないっていうか、上の空のことが多いし、何か悩みでもあるんじゃない?」
それはね、お前に恋してるからだよ。……なんて言えるかっつーの!
「そんなことないってー!最近ちょっと疲れ気味だからそう感じたんじゃない?ははは……」
「疲れ気味って、一体どうしたんだ?」
「ちょっと兄ちゃんとゲームの対戦すんのにハマっちゃって……」
嘘だけど。
「なんだ、それならいいんだけど。ゲームも程々にな」
「ほーい」
「でも、何かあったらすぐに言ってくれよ?」
「うん、ありがと」
大石はほっとしたように微笑んだ。心配かけちゃってたみたいだな。ごめん、大石。

「英二、これあげるよ」
大石が何かを握って、俺の方に差しだした。何だろうかと俺が手を伸ばすと、ころん、と掌に小さいものが落とされた。
それは、小さい飴の包みだった。氷いちご味と書いてある。
「これ……」
「英二、かき氷好きだったろ?飴だと本物とは味が違うかもしれないけど」
それって……。
「わざわざ俺のために選んでくれたの?」
「コンビニで見かけてさ、英二が好きかもしれないと思って買ったんだ。……元気なさそうだと思ってたし」
ま、俺の勘違いみたいだったけどな、と大石は付け足して、ちょっと照れくさそうに笑った。

大石が、俺のことを心配して、俺のことを考えて、俺の好きなもの覚えてくれていて、この飴を選んでくれた。……俺のために。
大石にとっては何気なくやったことに違いない。でも、俺はそれだけで胸が嬉しさでいっぱいになる。

重かった心があっという間に軽くなっていった。
今はまだ、もうちょっとだけ、このままでもいいかな。
大石はちゃんと俺のこと見てくれている。考えてくれる。それだけで、すっごくすっごく嬉しいよ。
 
でもいつか、言えるといいな。
お前が好きって、伝えたい。
「夏になったら、一緒に本物のかき氷食べに行ってくれる?」
「もちろんだよ」
だから今は、心の中だけで。

「やったー!ありがとな、大石!」
だいすきだぜ!


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