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恋人のベッド

飲み会がお開きになり、街からさあ家へ帰ろうと駅に向かう途中、俺は懐かしい後ろ姿を見つけた。
赤みがかった外ハネの髪。
朝気合を入れてセットをしているため、よく部活の朝練に遅れそうになっていたのを思い出して、笑みが漏れる。俺自身も遅刻ギリギリで自転車を飛ばすことがほとんど毎日であったため、人のことが笑える立場ではないのだが。




「英二せんぱーい!」
大声で呼ぶと先輩はびっくりしたような顔で振り返った。
「あっれー桃じゃん!久しぶりー!元気してた?」
先輩は俺に駆け寄り、笑顔で話す。

先輩は青春台から電車で二時間ほど離れた大学に進学し、実家を離れていた。この街からは一時間ほどだろうか。つまり、この街は青春台と大学のちょうど中間地点となる。
それにしても、まさかこんなところで会えるなんて、偶然ってすげえ。
「お久しぶりです!そりゃあもう元気に決まってるじゃないっすか。先輩も元気そうっすね」
「もちー!てゆうか桃こんな所で何してんの?」
「飲み会の帰りっす」
「そっかー俺は今日は買い物したり、ぶらぶらしたりだよ」
「こんな時間までっすか?」

今は夜の十時を回ったところだ。もうほとんどの店がとっくに閉まっているのではないか。
「うん、今まではツタヤにいたんだ。だって今日帰っても一人でさ、あんまり帰りたくなくて」
「え!そうなんですか?大石先輩は?」


そう、英二先輩は実家を離れたものの一人暮らしではない。いわゆるドーセーってやつをしているのだ。しかもその相手は俺もよく知る人物だった。なんせ、英二先輩と同じく俺の部活の先輩だった、大石秀一郎(男!)先輩なのだ。
「今日学部の友達ん家でオールで飲みなんだって」
「あーそうなんすか」

自分のよく知る先輩二人がそういうカンケイだったなんて、初めて知った時は驚いたもんだった。しかも、英二先輩とは割と仲が良かっただけに衝撃も大きかった。
しかし、自分はそういうことに対してもっと抵抗があると思っていたが、案外にすんなりと受け入れられてしまった。二人が一緒にいる様子があまりに当たり前だったからかもしれない。
それにジェンダーフリーだの叫ばれている時代に(大学で習ったばかりだ)、性別がどうこう言うこともないだろう。俺の先輩たち二人は時代の最先端を生きているのだ!




「なー桃ー、明日って休みだったりしない?」
英二先輩が俺の腕を引っ張って尋ねる。
「そうっすけど」
「じゃあさ、俺ん家来ない?つーか来い!」
「へ?」
「けってーい!じゃあ俺らも宅飲みしよーぜ、酒奢ってやるから」

どうやら俺には拒否権はないらしい。相変わらずの舎弟扱いだ。
英二先輩と飲むのは楽しそうで大歓迎なのだが、その、いわば二人の愛の巣ってやつを覗いてしまってもいいものかとためらってしまう。
先輩はそんな俺の気も知らずに「桃と飲むのは初めてだなー」なんて楽しそうに歩いていく。
くそ!もう腹を括るしかねえ!愛の巣でも何でも行ってやらあ!タダ酒だし!
俺たちは駅へ向かい、青春台方面とは逆方向の電車に乗り込んだ。



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