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おめでとう!

珍しく部活のない休日、普段めったに入ることのない雑貨屋の中で、俺は悩んでいた。
マグカップ、くまのマスコット、輸入菓子、動物の写真集、……。
色取り取りの商品が立ち並び、どれにも目移りがしてしまう中、俺は考えた。

英二の誕生日プレゼントは何にしよう……?


もうすぐ、俺のダブルスのパートナーである菊丸英二の誕生日だ。
もっとも、ダブルスのパートナーと言ってもまだ公式戦には出たことがない。今年の春に、ひょんなことから英二とパートナーを組むことになったものの、一年生である俺たちがレギュラーを決める校内ランキング戦に出られるようになったのは九月からのことだ。この十一月まで三度のチャンスはあったが、俺も英二もあと一歩のところでレギュラーの座には届いていなかった。
早く二人でレギュラーになって一緒に試合に出たい。
俺も英二もその一心で日々の練習に励んでいた。何としても十二月のランキング戦では勝ち抜きたい、……のだが、その前に俺には目下悩みがあった。
そう、英二への誕生日プレゼントだ。

おそらく英二は何をあげても喜んでくれるとは思うのだが、どうせあげるからには、やはり英二のとびっきりの笑顔が見たい。
しかし、一体英二がどんなものが欲しいかがさっぱり分からず、俺は途方に暮れていた。
半年余りの間、英二と一緒に過ごすことは多く、英二の趣味や嗜好なども少しずつ見えてきたように思うが、具体的にプレゼントを選ぼうとするとどうも決められないものだ。
俺は英二のことを思い出しながら、もう一度考えを巡らせる。

英二の趣味はペットショップ巡りと歯磨き……、とはいっても、まさかペットや歯磨き粉なんてあげる訳にはいかない。
じゃあ電動歯ブラシ……とか?いや、プレゼントとしてアリなのかどうかがいまいち分からない。
確か他に音楽鑑賞も好きなようだが、音楽の好みというのは人それぞれだろう。あ、CDケースというのもいいかもしれない。候補に考えておこう。
俺はもう一度店の中を見回って、いくつか候補を絞ろうと思い、歩きだした。


そんな折、雑貨屋の中で一際鮮やかなものが俺の目に飛び込んできた。
真っ赤な、長めのマフラーだ。
それを目にした瞬間、俺の脳裏にはそのマフラーを身に付けた英二の姿が浮かんだ。
とても元気で明るい英二のイメージににぴったり合った。それに、確か英二は赤が好きだと言っていたような気がする。
……うん、いいじゃないか!
俺は値札を見た。千円。思ったよりは安いが、それでも月の小遣いの3分の1である。
大きな出費だが、俺はこのマフラーを英二にどうしてもあげたいと思った。幸い月末だし、無駄遣いする方ではないので、買っても今月は何とかなるだろう。アクアリウム用に新しく流木を買いたいと思っていたが、それはまた我慢だ。だって、英二の誕生日は一年に一度なんだから。
俺はマフラーを手にしてレジへと向かった。
プレゼント用に包まれたそれを受け取ってから、俺は英二に早く渡したいと思い、英二の誕生日を待ち遠しく思う日々を送ることとなった。




……なった、のだが。
英二の誕生日当日、朝練が始まる直前に部室に入ってきた英二の姿を見て、俺はひどく動揺した。
「おはよう、英二。そのマフラー、新しいね」
俺と同じく、英二の姿を見た不二が話しかける。

そう、英二は今までに俺が見たことのない、つまり、おそらく新しいであろうマフラーを身につけてきたのだった。
落ち着いたモスグリーンの色をした、ざっくりと模様が編まれているマフラー。素材もいいものなのであろう、とてもそれは暖かそうに見えた。
いつも元気いっぱいの英二も、それを身につけているといつもと違う雰囲気に見える。そう、それは英二にとてもよく似合っていたのだ。

「おっはよーん不二!そうそう、これ姉ちゃんズから貰ったんだー」
不二の言葉に、英二が返事をする。
「貰った?」
「うん、そう。二人からのプレゼント!」
英二と不二が話しているところに、乾も加わった。
「そうか、今日は菊丸の誕生日だったな」
「あ、そういえばそうだったね。おめでとう、英二」
「サンキュー不二!」
不二からの祝いの言葉に、英二は笑顔で答えた。
「じゃあ俺からも一応。おめでとう、菊丸。ところでもう着替えないと練習に間に合わないぞ」
そして、乾からの祝いの言葉で、英二は慌てて、俺のいるロッカーの方へと走ってきた。俺は咄嗟にプレゼントを入れた紙袋を自分のロッカーの奥へと押しやった。

「おっはよ、大石!」
「ああ、うん。おはよう、英二」
動揺した俺の様子に、英二が眉をひそめる。
「ん?なんか大石テンション低くない?」
「いや、そんなことないよ!あ、そうだ。おめでとう、英二」
俺は何でもなかったかのように笑った。そして、英二に伝えたくて仕方なかった言葉も、いとも簡単に、さらりと口にしてしまった。
「あ、さっきの聞こえてた?サンキュー!」
「うん、そうそう!はは……あ、俺先にコートに行ってるよ。英二も急ぐんだぞ」
「オッケーオッケー!すぐ行くから一緒に柔軟しようぜー!」
そう英二が言っている最中、俺は急いで英二に背を向けて、コートへと駆けだした。


違うんだ、英二。本当は今日が英二の誕生日だって、ちゃんと覚えていたよ。
プレゼントだって買ったんだ。
英二に似合うと思った、真っ赤なマフラー。

俺は頭に浮かんでくる言葉を必死に考えないようにした。
なんだか自分が馬鹿みたいだ。勝手にプレゼントを用意して、勝手に落ち込んで。
英二は、別に誕生日プレゼントなんていらないと言っていたんだ。
英二は俺の誕生日を当日まで知らなかった。だから、自分の誕生日も特になにも用意しなくていいと俺に言った。
そう言われた上で、俺が勝手にやったことじゃないか。お姉さんたちからのプレゼントとかぶってしまったのは仕方のないことだ。割り切らないと。
英二にバレるといけないから、今日は必要以上に話さないようにして、さっさと帰ってしまおう。英二には、とりあえず購買のお菓子でも買おう。
俺はそう決めて、集中して練習しなくてはと、一呼吸置いて心を落ち着けようとした。



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