イニシアティブ



イニシアティブ

「ねーねー大石」
「ん?どうした?」
「ちゅーしてよ」
「え、ええ?」

「俺の部屋の机の向かいに座り、一緒に勉強をしていた英二が急にそんなことを言い出すものだから、俺は思わずうろたえてしまった。耳が熱くなっていくのを感じる。
「あはははは!大石ってば顔真っ赤になってるー!」
英二はそんな俺の様子を見て腹を抱えて笑い始めた。
「そんなに笑うことないだろ」
俺は少しムッとして英二に返した。流石にここまで笑われるといい気はしない。男としては。
「だってー、もう付き合って半年なのにやたらウブっつーかなんつーか……」
「……」
「カワイイやつだなー、もう!」
英二は机に肩肘ついて、俺の頬を指でつんつんと突きながらニヤニヤ笑っている。

確かに俺は、恋愛に関してはその、ものすごく奥手な方だと思う。
英二と付き合い始めてから半年だが、未だに恋人同士の行為になれない。今までずっと友達だったからだろうか、とも思うが、英二は割と大丈夫なようだ。英二は俺よりずっと順応性が高いのかもしれない。
よって今みたいにからかわれたり、英二から急にキスされたりして、どぎまぎしてしまい、笑われることなんかしょっちゅうある。

しかし、大石秀一郎!
今日もこのまま終わっていいのか?
ウブだのカワイイだの言われて笑われっぱなしなんて、男が廃るってもんだ!


――――――ひと泡吹かせてやる。


「英二」
低く名前を呼ぶと、英二は頬を突くのを止め、俺の顔を覗き込んだ。俺も英二をじっと見る。
きっと次は、「ごめん、ほんとに怒った?」と上目遣いで聞いてくるはずだ。だが、それをさせない。
 

俺は英二が口を開く前に、頬にあった英二の掌を掴んで、急に引き寄せる。英二の大きな目が更に開かれた。
俺自身も机から身を乗り出し、英二の唇に自分のそれを強く押し付けた、そして英二の口の中へと舌を滑り込ませる。
英二が息を飲むのを感じた。あまりに急なことで驚いたのか、頭を振って逃げようとする。しかし、俺は手を英二の頭の後ろに差しこみ、逃げることを許さない。
英二の歯を順番になぞっていく。押し返そうとしてくる舌を絡め取る。上顎を舌でくすぐる。
英二は時折、そんな行為に小さく声を上げていた。口が塞がれているから、喉の奥で呻くみたいに。


こんなに一方的に、性急に英二にキスをしたのは初めてだった。
俺自身の胸も大きく高鳴っている。
ちらりと薄目を開け、英二を見ると、顔を赤くしてぎゅっと目をつむって耐えていた。

……ヤバいなこれは。思ったより、イイ。
ひどく興奮する。癖になってしまいそうだ。


暫くして、俺はようやく英二を解放した。
お互いに息が上がって、まるで睨み合うように対峙した。否、実際英二は俺を睨んでいた。
「自分からしといて、顔赤くしてんじゃねーよ」
口が悪いのは、おそらく照れているためだろう。英二はどことなく面白くなさそうだ。言葉を吐くと、ふい、と俺から顔を逸らし伏せてしまった。
一方俺は、先ほどまでの自分の行動を思い出して頭を抱えていた。

ああ、俺はなんてことをしてしまったんだ!恥ずかしすぎる!
我に返ると、さっきまでの自分は何だか別人のように思える。あんな大それたことを自分がしたなんて、信じられない。英二にも言われたが、きっと俺の顔はこの上なく真っ赤なはずだ。まあ、英二の顔も赤いけど。

「何とか言えよ」
英二が口を開く。
「えーっと……ごめん、な?」
「何だよそれ!ふざけんなー!」
英二は怒りだしたが俺はもちろんふざけてなどいない。至極真面目だ。
「じゃあ何て言えばいいんだよ」
「知るか!そんなの自分で考えろ!」
「そんなこと言われても……じゃあ英二、模範解答」
「はあ?」
「半年経ってもウブで奥手な大石くんはこういう時何て言ったらいいかさっぱり分からないので英二から御教授願おうと思って」
「……」

英二は再び俺を睨んで黙り込んでしまった。
してやったり。
ちょっと自分自身キスの後照れてしまったが、今ので完全に英二を出し抜けたんじゃないか?よくやった、俺!
俺はそう自画自賛をして、英二がニヤリと笑ったことに一瞬気づくのが遅れた。

英二はニヤリと笑い、俺がそれに反応する前にするりと俺のそばに近寄り腕を首に絡ませた。
顔を唇が触れる直前まで近づけ、挑戦的に目を細めると一言、

「じゃあ、もっかい、しよーぜ」

なんて囁くと、キスを仕掛けてきた。先ほど俺が英二にしたことを、そのまま繰り返される。


このまま負けるわけにはいかない。男として!
俺はそう考えると、英二に負けじと彼の口へと舌を伸ばした。



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