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英二が慌てて大石を止めるので、大石は一体どうしたのかと思った。
やっぱり、英二はまだ怖いのだろうか。何とかして彼を安心させなければ。
「英二。大丈夫、安心して……」
「じゃなくて!俺がこっち側なの?」
「はい?」
大石は英二の言っている意味が分からなかった。……こっち側?
「だーかーら、俺が抱かれる方なのかって聞いてんの!」
「はあ?」

それは大石にとって思いもよらない言葉だった。昨日のシミュレーションでも英二はそんなこと言い出したりはしなかった。どのパターンでも英二は恥ずかしそうで、でも頑張って大石を受け入れようとしてくれていたのだ。
「それってつまり……」
聞くのが怖い。大石は一呼吸置いた。
「つまり……英二は俺を抱きたいってこと?」
英二が大石の言葉に頷いた。
「そりゃあ、俺だって……」
英二はしおらしく目を伏せる。

「そりゃあ俺だって男なんだから、自分のチンコ突っ込んで相手にあんあん言わせたいって願望はあるよ!」
英二の直接的すぎる物言いに大石は動揺してしまった。な、なな、何を言ってるんだ英二は!
「でもそうか、大石も男だもんね……。大石は俺をあんあん言わせたいの?」
まだ思考回路が元に戻っていなかったが、その言葉から思わず大石は思い描いてしまう。


大石の下で、あられもなく声を出して悶えている英二。


「……言わせたい……です」
「そっか。それじゃあどうしようか……うーん」
混乱気味の大石を放って、英二は実にあっけらかんとした様子で話を進めた。
「男のコカンに関わる問題だ……」
「……沽券、ね」
わざと間違えたのか分からない英二のボケに大石は何とかツッコミを入れたが、
「結局関わってるんだからいーじゃねーか!」
と、一蹴されてしまった。

英二が一人でどうしようか悩んでいるうちに、大石も大分自分を取り戻してきた。
「いっそのことじゃんけんってのはどう?」
「そんな適当に決めていいのか」
「だって他に思いつかないしさー……」
じゃんけん、あっちむいてホイ、腕相撲……は俺が負けるからだめだ、などとぶつぶつ言いながら英二は悩み続けていたが、何かひらめいたのか急にぱっと顔が明るくなった。
「じゃあさ、ゲームで決めるってのはどう?」
「ゲーム?何の?」
テレビゲームなら大石は圧倒的に不利だ。
「その名も、相手に口説き落とされたら負けゲームー!」
なんだ、そりゃあ。
「相手にどれだけ自分が抱きたいって思ってるかをアピールして、こう胸が、ずっきゅーん!ってなった方が負けってこと。どう?公平な決め方じゃない?」
「アピールしてずっきゅーん……」
「つまり、例えば俺が大石に『お前を抱けるなら死んでもいい』って口説いて、大石がずっきゅーんときたら大石の負けってこと」
「そんな!英二に死なれたら困るよ!」
「タダの例え話だって」
「うーん、ルールは分かったけどさ。そのずっきゅーんってのは自己申告なのか?」
「うん」
「それならちょっと判定が曖昧にならないか?ごまかすことだってできるし……」
大石が冷静にゲームのルールにツッコむ。大石は変なところで真面目すぎるのだ。
「えー!でももう他に思いつかないよー!」
英二は不満そうな声をあげると、またうーんと悩みだす。


そんな英二の様子を見て、大石はふと微笑み、口を開いた。
「別に、俺が抱かれる側でいいよ」
「え?」
大石の言葉に英二が顔を上げる。
「なんか、英二と抱きあえるならどっちでもいいって思えてきたんだ」
「大石……」
「大事なのは俺たちが愛しあってるか、だろ?きっと方法なんてどうでもいいんだ」
「……」
「英二につらいこと無理に押し付けられないしさ」
「……」
「……それに、俺は英二になら何をされても構わないよ」
大石はそう言って英二に笑いかけた。




「……だめだ。俺、きちゃった」
英二がぽつりとつぶやく。
「ん?」
「今、ずっきゅーんって、きちゃった。……俺の負けだよ」
「ええ?」
大石の素っ頓狂な声が部屋に響き渡った。




さて、結局、どちらが勝者になったのか。
それは、二人にしか分からない。


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