Clap


惚れ薬


「はい、大石。手ェ出して」
「ん?何?」
「惚れ薬ー!」
 そうして英二の手から俺の手のひらに転がったのは、赤い小さな飴玉。
 一連の英二の行動に俺は息を飲んだ。
 ――英二が、仕掛けてきた。


 英二と俺がお互い想い合っていると気づいたのはいつだっただろうか。
 俺たちはお互いのことを何でも理解できるパートナーだった。だから自然と、普段の何気ない仕草や表情で、いつからかお互い気づいていた。そして、俺たちはその状態を楽しんでいた。
 いつか俺たちはそういう関係になるだろうという安心感の中で、思わせぶりな態度や言葉をしてみたり、意味有り気に相手の肩に触れたりして。
 そんな風にうやむやな関係のまま過ごしてきた。

 だけど、いつかは言おうと心に決めていたのだ。
 例えば、クリスマスとか英二の誕生日とか、特別な日に、どこかに二人きりで出掛けて、英二の喜びそうなプレゼントなんかを用意して、ちょっと格好つけて、思い出に残るような言葉で伝えようと思っていた。
 ……それなのに、どうして。


 こんないつもと変わらない日に、いつも遊んでる英二の部屋で、いつもと同じようにテニス雑誌のページをめくっていた、正に今、英二は俺に言わせようとしている。
 どうしてこのタイミングなんだ、と思ったが、多分、ただの思いつきだろう。英二が思いつきで突飛な行動をするのもいつものことだ。
 もしかすると英二はこんな関係にそろそろ飽きてきたのかもしれない。

「ひとつじゃ足りない?」
 そんな俺の気持ちをつゆとも知らず、英二は悪戯っぽく笑い、さらに追い打ちをかけてくる。


 ……逃げきることは、できる。
 適当な言葉ではぐらかして、英二を誤魔化す自信はあった。そして、俺の考えていた展開へ持っていくこともできる。
 だけど、今は英二の思いつきに乗ってしまうことにした。

 一歩進んだ関係がどんなものなのか、俺も興味を引かれていたのだ。


「もう惚れてるから、要らないよ」

 おそらく英二の求めているであろう答えを返すと、英二はしてやったりと笑顔を見せた。
 だけど、何となく全て英二の思い通りになるのが癪で、俺は飴玉を自分の口へと放り投げる。
 そしてそのまま、英二の唇へと、自分のそれを近づけた。




拍手ありがとうございました!
何か一言あればどうぞ!



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -