クリスマス2018


キラキラしたイルミネーションに、街中に鳴り響くクリスマスソング。そんな浮かれた人間界の様子を見て、今年もこの季節がやってきたんだなとため息をついた。ちらりと隣にいた友人を見ると、彼も楽しげな人間界の様子を見てはげんなりとしていた。

「あ〜もうクリスマスかよ…しんどいなぁ…」
「まあそう言うなって。これが仕事だから仕方ないだろ」
「そうなんだけどさぁ…いいよな、人間は楽しそうで。聖夜にかこつけて性なる夜を過ごす奴らもいるんだろ?羨ましいったらありゃしねえぜ」

友人の不満には概ね同意だが、文句を言ったところで仕事がなくなるわけでもない。俺たちトナカイは、相方のサンタクロースがプレゼント配達に行くのに欠かせない存在だ。彼らは俺たちの力がなければ人間界に降りることができない。サンタとトナカイは契約を結んでビジネスパートナーとなるのがこの世界の常だ。

「そういやお前今年はフリーなんだっけ?組んでた爺さん、去年で引退したんだろ?」

俺が契約を結んでいたのは結構ベテランの爺さんサンタだった。特に何か突出したところがあるわけでもなく、なかなかパートナーを見つけられなくて路頭に迷っていた俺をパートナーにしてくれた。拾ってくれた恩を返したくて必死に働いた。気難しい爺さんだったが、それなりに上手くやれていたと思う。そんな爺さんも寄る年波には勝てず、去年サンタ業を引退してしまった。それと同時に俺も職を失ったようなものだ。
新しくパートナーを見つけようにも、知り合いのサンタはみんな既に専属のトナカイ持ちばかりで上手くいかない。フリーで活躍するトナカイもいるにはいるが、そういう奴は大抵足が速いだとか、力持ちだとかいう特技を持っている奴ばかりだから、何の特技もない俺がフリーでやっていけるわけがない。

「フリーでやれる気がしないから一応斡旋所に登録したけど、何の連絡もないから多分ダメだな…」
「…元気出せよフリッツ。別に必ずしも職持ちじゃなきゃいけないわけじゃないんだ」

確かにサンタよりトナカイの方が数が多いから、契約を結ばず自由気ままに過ごしているトナカイも少なからずいる。それでもこれまでずっと忙しなく働いてきたし、周りの友人たちは職持ちばかりだから自分だけそうじゃないというのも気にしてしまう。そもそも俺には自由に過ごすよりも働いている方が性に合っている気がした。
友人は落ち込む俺を見かねて食事に誘ってくれたが、運悪くパートナーに呼ばれたらしく、申し訳なさそうにしながらパートナーの元へと向かってしまった。


友人を見送って再び人間界へ目を向けると、仲睦まじく寄り添うカップルや友達同士でワイワイ騒ぐ集団が目に止まった。クリスマスを前日に控えて、街の雰囲気は最高潮に達しているようだ。どの人も楽しそうにしている。そこから目を離して周囲にも目を向けてみたが、サンタもトナカイもみんな忙しそうにしつつも、年に一度の大仕事というのもあって生き生きとしていた。

「沈んでるのは俺だけ、か…」

クリスマス前日になっても連絡がないとなれば、仕事はきっと見つからないだろう。かといって一緒に過ごしてくれるような友人も恋人もいない。楽しそうな周囲の様子なんて見ていられない。さっさと帰って寝てしまおうと思い、下を向いて歩き出した。

「フリッツ!!」

大通りを抜けようとしたところで、後ろから大声で呼び止められる。驚いて振り向くと、そいつは走ってこちらに向かってきた。

「はぁ…はぁ…やっと見つけた…」
「に、ニルス?どうしたんだよ。配達の準備は?」

ニルスは最近知り合った、俺と同い年のサンタだ。キラキラしたオーラを纏っていて、仕事ぶりも大変良い評価を得ている所謂勝ち組という奴。だがどういう理由か専属のトナカイはいないようで、ずっとフリーの奴と一度限りの契約を結んで仕事をしているらしい。トナカイ間ではあんな奴の専属になれたら鼻が高いだろうという話で持ちきりだったので、俺もその存在だけは知っていた。友人の紹介で知り合ってそれなりに付き合ってきたが、今でもこんな有名人と知り合いだというのが信じられない。

「配達準備ならとっくに終わってるさ。俺はお前をずっと探してたんだ」
「え、なんで…」
「そりゃお前、契約するために決まってるじゃないか」
「ええっ!?」

仕事の早いニルスはいつも早い時期に契約を済ませている。今年もそうだと思ってたけど、もしかして誰とも契約出来なかったのか…?いやでもあのニルスに限ってそんなことあるわけがない。たった一度だとしても、誰もが羨む契約のはずだ。

「待ってくれ!契約するにしても、なんで俺なんだ。俺なんかよりもっと優れた奴がいるだろ?」
「能力の優劣がどうこうじゃない。俺は契約するならお前しかいないと思ってたし、この契約を一度きりのものにするつもりもない」
「ど、どうして…」
「俺、ずっと契約なんて馬鹿馬鹿しいと思ってたんだ。単なる仕事に皆がなんでそんな期待してるのか理解できなかった。寄ってくるのは下心が丸見えの奴ばかりだったし、そんな奴と組むくらいなら割り切った関係で仕事ができるフリーの奴と組む方がマシだった」
「……」
「でもお前があの気難しい爺さんと組んで楽しそうに笑いながら仕事してるのを見て、なんていうか…一目惚れしたんだ。俺にもそういう風に笑いかけてほしいって思った。そういう関係になれる専属が欲しくなっただけかもと思ったんだけど、他の奴じゃダメだった。他でもないお前に、俺の専属になってほしいと思ったんだ」
「う、そだ……」
「嘘なんかじゃない。爺さんとの契約が切れたお前が斡旋所に登録したって聞いて、めちゃくちゃ焦った。…なあ頼む。他の誰かに取られたくない。俺にはお前しかいないんだ。俺と、専属の契約を結んでほしい」

差し出されたニルスの手は震えていて、緊張しているのだというのが伝わってくる。あのニルスの専属になるなんて信じられないけれど、必死に働いていたあの頃の自分が評価されたようで純粋に嬉しかった。

「…え、えっと、こんな俺で良ければ…。こちらこそ、よろしくお願いします」
「っ…フリッツ!!」
「うわっ!?き、急に抱きつくなよ!」
「はぁぁめちゃくちゃ嬉しい…これでフリッツは俺のもの…愛してる…」
「あ、愛…」
「照れてる……かわいい……!!あーもう無理、仕事終わったら絶対抱き潰すから覚悟しとけよ!」
「!?!?」


それからニルスは驚くべき速さで配達を済ませ、宣言通り俺を抱き潰した。
…ちゃんとよく考えてから契約するべきだったかもしれないと思っても、もう後の祭りだ。



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