06


あまりの衝撃で理解が追いつかない。一旦落ち着け俺。深呼吸だ。冷静になって考えろ。
九重神社は都市伝説の存在で、たとえ過去に実物が存在したんだとしても現代には残ってなかったはずだ。それがどうしてこんなことになるっていうんだ。夢でも見ているのかと思って頬を抓ってみても痛みは感じるし、看板の文字は何度見返しても変わらない。
神隠し、という単語が頭によぎる。冗談じゃない。…いや、まさかそんな。しかし今の状況ではそれしか考えられない。

「うっそだろぉ……」

頭を抱えて蹲る。霊感などといったものは持ち合わせていないというのに、この仕打ち。いや神隠しならそんなものはなくても関係ないのか?どちらにせよ非常事態なことに変わりはない。何とかしなければ。

「あの…大丈夫…?」

うーうー唸っていると、先程の助けてくれたという男も外に出てきたようで、遠慮がちに俺に声を掛けてきた。この男、一応命の恩人みたいなもんなんだろうが、こんなよくわからない場所に住んでいるというあたりどうも怪しい。物の怪の類いか、それとも。あまり信用はしない方がいいかもしれない。確実に信じられるのは己だけだ。

「…大丈夫です。目の前の現実が受け入れ難いだけなんで」
「なら良いんだけど…無理はしない方がいいよ」
「ご心配をおかけしました。…あの、出口ってどっちですか?」

ずっとここにいたって何も変わらない。とにかく何か行動しなければ。

「え、あっちだけど…もう帰っちゃうの?」
「まあ帰れるなら帰りますけど…」

しょげて垂れ下がった耳と尻尾が見えそうなほど寂しそうにする男の姿に、若干気が引けてしまう。いかん、ダメだぞ俺。犬は好きだが、いくらこいつが犬っぽいとはいえ相手は素性もよくわからん奴だ。罠の可能性も高い。

「そっか…せっかくだからお茶でもって思ったけど、急ぐなら止めるのも悪いよね。それなら途中まで送るよ」
「えっ、いやそんな悪いですって!大丈夫です!」
「僕がそうしたいだけだから、気にしないで」

そう言って笑う顔はやっぱり綺麗で、悪い人には見えないし、いい人なんじゃないか、と思ってしまった。
…こんなにちょろくて大丈夫なのか、俺。


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