05


男は人好きのする笑顔を浮かべながら、あまりの美形ぶりに驚きすぎて動けずにいる俺の側に腰かけた。

「気分はどう?山の中で倒れてたから驚いたよ。幸いどこも怪我はしてないみたいだったけど…」
「え、えっと、体調は特に問題ないです。あの、助けてもらってありがとうございました」
「気にしないで!困った時はお互い様、ね?」

ニッコリ笑うその顔はどこぞの俳優やモデルより綺麗で思わず見惚れた。ハッとして首を振る。いかんいかん、相手は男だ。そういったものに偏見はないが俺にそっちの気はない、はずだ。そんなことより今の状況を把握しなければ。

「起きて早々で申し訳ないんですけど、聞いてもいいですか。ここは麓の蒲原村で合ってますか?」

助けられたのなら山から離れていない麓の村で間違いないと思うが、もしかしたら近くの別の村に運ばれている可能性もある。そうなると帰り道が心配だ。
男はきょとんとして首を傾げている。…なんだ?

「蒲原村なんて聞いたことないなぁ。というか、ここは麓どころか山の中だよ」
「ええっ!?」

予想外の答えで目を見開く。まだ山の中だと?こんな山の中に村があるって言うのか。

「え、じゃあここは一体どこなんですか…?」
「ここは九重神社の一角。神主の住居区画だよ」
「はあ!?!?」

今、この男は何て言った?九重神社だって?
待ってくれ、それは都市伝説で、山の中にあるのは跡地なんじゃなかったのか。どういうことだ。

「ちょっ、と待ってください。今、九重神社って言いましたか」
「うん、言ったね。あ、ちなみに僕は神主っていうか、神社を管理してる宗方千景。気軽に千景って呼んでね!君の名前は?」
「あ、麻生匠です…じゃなくて!!本当に九重神社!?」
「そんな驚くこと?信じられないなら外の看板を見ておいでよ。ちゃんと書いてあるから」

俺は慌てて外に向かって飛び出した。後ろから「急に走ると危ないよ!」と聞こえたがそんなのは無視だ。一刻も早く確認しなければならない。


外に出た俺を待っていたのは、森に囲まれた静かな雰囲気の、神社としか言いようがない建物だった。信じがたい光景に圧倒され、フラフラしながら看板の方へと歩み寄る。そこに書かれている文字を読んで俺は頭を抱えた。


看板に書かれていたのは『九重神社』の4文字だった。


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