08


その後、再び先程の居住区画に連れていかれ、ざっくりと部屋の案内や説明を受けた。平屋造りで古めかしいその建物は思った以上に広いようだった。

「匠くんの部屋はここ。隣の部屋が僕の寝室だから、何かあったら呼んでね。あと、僕以外に人は住んでないから、困ったこととかあれば僕に言ってね」
「1人で住んでるんですか」
「そう。こんな山の中だし、人も寄り付かなくて。誰かとこんな風に喋ったのなんて何年ぶりだろうって感じだよ」

寄り付かないというよりは、寄り付けないの方が正しいと思う。というかそもそも、この怪しい男は九重神社がどういう存在なのか知ってるんだろうか。関わる機会も多くなるだろうし、まずはこの人のことについて調べた方がいい気がするな。

「あの、千景さんは九重神社がどういうものなのか知ってますか?」
「え?うーん、どういうものと言われてもなぁ…僕も詳しくは知らないんだよね…」
「え、でもここの神主なんじゃ…」
「僕、自分がいつからここにいて、こうしてるのかよくわからないんだ。小さい頃のこととかも全然覚えてなくて。気付いたら今の生活してたんだ。だからこの神社のことも正直よくわかってないんだ。ごめんね」

自分のことすらわかってないなんて、怪しすぎるにもほどがある。でもそう答える千景さんの表情にはどこか影があって、もしかしたらこの人にも何か事情があるのかもしれない。そう思った。

「この神社のことが知りたいなら、色々調べてみるといいかも。僕もどこに何があるのか把握しきれてないけど、多分どこかに何か資料が残ってるんじゃないかな。好きに探してもらって全然構わないよ」
「助かります」
「できる限り僕も手助けするから、何かあればいつでも頼ってね」

千景さんはそう告げると、ご飯の支度するね、と言って部屋から出ていった。
頼みの綱だった彼が何もわからないとなると、問題は山積みだ。どうすればここから出られるのか、何故俺はここに迷い込んだのか。それに、千景さんのことも少し気がかりだ。
ひとつひとつ、じっくり考えていくしかない。


(9/9)
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