日は昇らず


※ぬるい性描写あり。


失って初めて気付くものがある。
そういうものに限って本当にかけがえのないものであったりして、一度失くしてしまえばもう二度と手に入らない。
だからこそ常日頃から、日常に溶け込む些細なものでも大切にするべきなのだと思う。


「おはよう、兄さん」
「…うん」

たった1人の兄がいる。日陽兄さん。俺に残された唯一の肉親。
俺が大学1年、兄さんが社会人1年目の時、両親が事故で亡くなった。それ以来、俺たち兄弟は2人で支え合って暮らしてきた。両親が死んでしまったことはもちろん悲しかったし涙も流したけれど、心から愛している兄さんがいるから辛くはなかった。

そう、俺は実の兄を愛している。家族愛ではなく、恋愛対象として。両親がいなくなってしまった俺たちには、もうお互いしか残されていない。実際、葬式直後の兄さんは俺を心の拠り所としていた。

「俺にはもうお前しかいない、俺を置いて行かないでくれ」

兄のその言葉は心を満たした。家族としての愛だとしても、俺を頼りにする兄さんの姿にゾクゾクした。


2人で支え合って生きる暮らしは素晴らしかった。幸い俺も兄さんももう自立できていたし、家事を分担して、お互いに補い合って暮らした。2人で暮らす空間はまるで新婚のようだとさえ思った。それほどまでに幸せで、俺は正直浮かれていた。
ある日突然、兄さんがあの女を連れてくるまでは。



「結婚、しようと思うんだ」

兄が照れくさそうにそう言って、憎き女、三原由美を俺たち兄弟の家へ連れてきたのは、俺が大学を無事卒業して働き始めてから2年ほど経った頃のことだ。突然のことで何も言えずにいる俺をよそに、兄は聞きたくもない女の紹介をする。職場の付き合いで出会って、お互い惹かれあって、連絡を取り合うようになって。それで今に至る、と。反吐が出るかと思った。
女ができた素振りなど一度も見せたことがなかったはずだ。…いや、よく思い返せば確かにどこか機嫌がいい時もあったし、週末に出かけることも多かったように思う。兄との幸せな生活に浮かれていた俺が気づけなかっただけで、知らぬ間に兄は卑しい女の毒牙にかかっていたらしい。
気づけなかった自分を腹立たしく思うと同時に、兄を誑かした女への怒りがふつふつと湧き上がる。

「俺ももういい年だし、夕月、お前も大学出て働くようになっただろ?いい節目だと思ったんだ。いつまでも2人だけで居て、お前に縋ってちゃダメだと思ったんだ。お前のためにも、そろそろ離れてお互いの幸せを見つけるべきなんだと思う」

ぷつり、と何かが切れる音がした。

「…せない」
「え?」
「ゆるせない、ゆるせないよ兄さん。いつまでも2人で居ちゃいけない?そんなこと誰が決めたの?しかも、俺のためって。俺のためだって言うなら俺から離れるなんて冗談でも言わないでよ!俺の幸せは、兄さんと一緒にいることなのに!!」
「ゆ、夕月…?」
「浮かれてた俺が馬鹿だった。もっとちゃんと注意してれば兄さんがこんな女に誑かされることもなかったのに。俺から兄さんを奪うなんて絶対に許さない。兄さんが俺から離れるなんて、そんなことあっちゃいけないんだよ」


理性の切れた頭は冷静になどなれない。怯える兄と女を縛り上げ、俺はそのまま嫌がる兄を、女の目の前で犯した。


「う…ん、ぐ、」
「はぁっ…最初から、こうしておけばよかったんだ。ねえ、にいさん」
「ア、んっ、ゆ、づき、やめ、」
「やめる?嫌なの?そんなわけないよね、こんなに気持ちよさそうにしてるじゃない。気持ちいいでしょう?もうあんな女じゃ満足できないよね、ねえ」
「ぅあっ!」
「だいすき。あいしてるよ、はるひにいさん。おれにはにいさんしかいないし、にいさんにもおれだけ。ずうっといっしょだって、やくそくしたよね」
「ァ、も、イ、」
「ん、いっしょにイこうね、ハ、なかにだすよ、」
「ヒッ、や、いやだ!なかは、ァアア!!」
「っ…はぁ……」

絶頂と同時に気絶した兄の中からずるり、と自身を引き抜く。ぽっかり空いた穴からは白濁がどろどろと流れ、昏い充足感が俺を満たす。
手足を縛られ、口も塞がれた女は怯えきった表情で俺を見ていた。ゆっくりと女に近づき、拘束を解く。

「…金輪際、兄さんに関わらないって誓うならお前には何もしない。分かったらその指輪を置いて、今すぐここから出て行け」

女はコクコクと頷いて、逃げるように家から出て行った。女が置いていった指輪を拾い上げ、兄の指からも同じものを引き抜いてゴミ箱へ投げ入れる。もう、必要ない。

「新しいものは、ちゃんと俺が用意するからね」



それから兄さんは三原由美と別れて、今まで通りの日常が帰ってきた。いや、今まで通りというのは語弊があるだろう。
兄は仕事を辞めた。辞めたというよりは、辞めさせた、という方が正しい。俺は兄さんを囲った。もう二度と兄さんが女などに誑かされることがないように。
狭い家の中で、兄は日々俺の帰りを待ちながら生きている。あれだけのことをしたというのに、兄は変わらず優しかった。俺の気持ちを受け入れてくれたのかとも思ったが、それは違う。きっと、諦めているのだと思う。現に、あれ以来兄はあまり笑わなくなった。

この関係が始まった最初の頃こそ、兄が俺の側に居てくれさえすれば、それでいいと思っていた。だが、最近はそうではないのかもしれないと考え込むことが増えた。兄には笑っていてほしい。でも、今ではもう、あの頃の優しい笑顔を見ることはできないだろう。

俺は間違いを犯した。きっと、兄を愛した時点で全てを間違ってしまったのだ。
失ったもの、壊れたものは二度と元には戻らない。



「ごめんね、にいさん」



それでもあいしてるよ。



(5/10)
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