君のせい


幼馴染の男に出来たばかりの彼女を奪われた。

その子との初デートの前夜、彼女から電話がかかってきたかと思えば「急にごめんね。添島くんと付き合うことになったから、柳村くんとはもう付き合えない。別れてほしいの」と言われた。あまりにも突然で衝撃的すぎる内容に何も言えずにいると電話は切られてしまい、慌てて掛け直しても彼女が電話に出ることはなかった。


添島というのは俺の隣の家に住んでいる男で、所謂幼馴染というやつである。母親同士の仲が良いため小さい頃はよく一緒に遊んだりしていたが、いつのまにか疎遠になって今では全く関わりがない。まあ添島は派手な奴が多いグループにいて、俺はどちらかというとおとなしめなグループにいるので仕方のないことだと思う。俺はうるさいのが苦手だし、カーストが違う。添島が嫌いだというわけではない。あいつの周りはいつも賑やかだから、進んで関わろうと思わないだけだ。あっちがどう思ってるのかは知る由もない。

今では会話もろくにしないというのに、添島はちょくちょく俺に嫌がらせのようなことをしてくる。俺がいいな、と思った女の子がいれば数日後には添島と付き合い始めているし、俺に彼女が出来たかと思えば長続きしない上に、別れた後は必ずと言っていいほど元カノの次の彼氏枠には添島が収まっている。もっと言えばこうして彼女を奪われるのも今回で2度目だ。
一体俺が何をしたというのか。小さかった頃ならともかく、今はまともな関わりなんてないだろう。それとも、俺が知らないうちに何か気に触るようなことでもしたのだろうか。
心は広い方だが、さすがに2度目となれば俺も怒る。きっと偶然ではないはずだ。
真意を確かめるため、俺は放課後に添島を呼び出して直接聞いてみることにした。


『話があるから放課後第二視聴覚室に来てほしい』
あいにく俺は添島個人の連絡先を知らないので、それだけ書いた紙を下駄箱の中に入れておいた。告白の呼び出しのような書き方になってしまったけど、ちゃんと俺の名前が書いてあるから変な勘違いはしないだろう。
一日中、添島にどうやって話を切り出そうか考えながら過ごし、放課後になってからすぐに第二視聴覚室へ移動した。


「哲也、」

視聴覚室には既に添島がいた。俺はおそらく嫌われているだろうし、呼び出しに応じる可能性は低いかもしれないと思っていたので少し驚く。

「びっくりした、もう来てたんだな」
「まあ、急な呼び出しだったし。何より、哲也からっていうのが気になって。もうしばらくまともに喋ってなかったじゃん、俺ら」
「確かにな。ああ、突然で悪かった。ちょっとお前に聞きたいことがあって」
「何?どうしたの」

一日中、散々考えたが上手い切り出し方は思いつかなかった。ここはもう直球で聞くしかないだろう。一度深呼吸をして、口を開く。

「俺さ、ちょっと前まで彼女がいたんだけど、この前振られちゃって」
「うん」
「その時彼女が、お前と付き合うことになったから俺と別れてほしいって言ってきて」
「……」
「その彼女だけじゃなくて、前の彼女もそうだった。2回も続けてお前が関わってるなんて、もう偶然とは思えない。……なあ、なんでこんなことするんだよ。俺、お前になんかした?」

添島は何も言わずに俯いた。沈黙が続く。痺れを切らした俺が再び声をかけようとすると、添島は口を開いた。

「……嫌だったんだ」
「は?」
「哲也に彼女ができるのが嫌だった。だからこうするしかなかった」
「なん、だ、それ」
「昔はあんなにいつも一緒にいたのに、今じゃ近づくことすらできない。俺は哲也と一緒にいたいのに。…わかってる。俺の周りはいつも喧しいし、哲也はうるさいの嫌いだもんね。だから一緒にいられなくなったことは我慢した。でも、哲也が俺じゃない誰かに恋愛感情を持って接するのは耐えられなかった…」

添島の言うことに頭がついていかない。
一緒にいたかった?添島じゃない、別の誰かに恋愛感情を持つのが許せない?
そんなのはまるで、まるで添島が俺にそういう意味で好意を持っているような言い方ではないか?

「離れてても俺は哲也をずっと見てたから、哲也が誰を好きになったのかなんてすぐわかった。だから哲也が好きになった子は俺の方を向くようにしたし、付き合っちゃったとしてもアプローチし続けて別れさせてた。それでも上手くいかなかった子は強行手段だったよ。それが今回と前回の子。…よくないことをしたのはわかってる。謝っても許されないことも。それでも我慢できなかった。……ごめん」

添島の目からは涙が流れていた。夕日に照らされたそれは、添島の綺麗な外見も相まって、酷く美しいものに見えた。酷いことをされていたというのに、俺はどうしてか怒る気になれない。
その理由は彼が泣いているからなのか、それとも。


よれたカーディガンの袖口で添島の涙を拭い、軽く抱きしめて背中をさする。

「泣くなよ、和泉」
「っ、なまえ、ていうか、これ」
「昔はよくこうしてただろ」
「そ、そうだけど、こんな、こんなの、期待するだろ。俺がそういう意味で哲也が好きなの、わかったでしょ?きもちわるいでしょ…?」
「きもちわるいかどうかは俺が決めることだろ。俺はそう思ってない。…お前と同じ気持ちなのかはわからないけど、嫌じゃないよ、和泉の気持ち」

自分でも驚いている。でも、あれだけのことをされて、秘めた想いを告げられても嫌いになれないのは、多分そういうことなんだと思う。
平気なフリをしていただけで、俺だって気軽に話せる間柄ではなくなったことが寂しかったのだ。

「…そんなこと言われたら、俺調子乗るよ」
「いいよ。お前をそこまで追いつめたのは俺のせいだ」
「〜〜っ、どうなっても知らないからね!」

そう言って添島…和泉は俺に噛みつくようなキスをした。




「幸せすぎて死にそう」
「……お前は手加減っつーもんを知らないのか。ここ学校だぞ」
「ごめん、でもいいって言ったのは哲也だからね」
「ここまでやれとは言ってないだろ!…ったく、誰かに見られてたりしたらどうすんだよ…」
「そしたら俺のせいでいいよ、それでおあいこ」
「俺のメンタル的におあいこじゃねえよ…」



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