てにす | ナノ
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雀の鳴く声が寝ぼけた頭に響いて、ゆっくりと瞼を持ち上げると窓から差し込む光に朝なんだと理解する。
頭いてーな。また二日酔いかよ…ったく、やめようと思ってもジャンプしかりコレがやめられねーってんだ。困っちゃうよ全くよぉ…今何時だぁ? …新八まだきてねぇの…?
ズキズキする頭に苛付きを覚えながら手探りでその辺に転がっているであろう時計を探す。起きたばかりに二日酔いが重なりフラフラする。時計時計っ…どこだよ。
苛立ちを露わにし手をその辺に着いて思い切り握る…握るというかわし掴むというか…突如呻き声のような掠れた声が部屋に響いた。

「っ…んぅ…」
「………は?」


ムニュっとした時計や布団とはかけ離れた柔らかさと温かさが手に伝わる。え、何コレ。何かいろんな意味で兵器ッポイコレ何。俺は何を掴んだ、まさかアレか?アレかな?あの俺の堅いのとは違ったアレなのか?!
若干、むしろかなり怖いけど確かめるべく、おそるおそるゆっくりと己の手に目をやる

「………」

さぁ、と血の気が引いていくと同時に寝ぼけていた頭が覚醒した。あれ、え、これあれ?夢?俺夢見てんの?どうして名前が俺の側で寝てんの? Tシャツ一枚とか誘ってんの?可愛い寝顔しながらおねんねですか。襲われるの待ってんのか!
…だめだ思い出せない。

ん?ところで俺何掴んじゃってんの?見たところこれって名前さんのおっぱ…胸じゃね? 結構あるな、形といい―――じゃなくて、どうしよう俺の手がガッチリ掴んでるんだけど、とととと取り合えず堪能しとく、いやいやいやいやいやいやいやダメだよ銀さん!
そんな事してて名前が起きたらコレ多分半殺しの上は軽く越えるよ!うん死ぬよ俺いろんな意味で。堪能死ってアリすか。
ととと取り合えず。ワンツースリー。ものっそい惜しい気もするけど、この手をおっぱ…胸から退ける事から始めようか。ワンツースリー。レッツビギン!
退けなくては…退けなく、退け…ち、力がはいらな…! いやいや力を入れてどうする!力を抜いたままちょっと手を動かせばいいこったろーが!動かすって何?左右に?それとも上下?
当たり前に上に挙げればいいんだよォォォォォッ!!

今すぐ手を退けるんだ死にてーのか?!ムスコ共々あの世逝きしてーのか?!全ては俺の右手にかかってんだぞ!生きてればその内名前の胸揉める日がくるかもしれねーだろーが!折角の可能性パーにする気か俺の右手エエエエエエ!


「っ、んん…」

ドッキィィィーン…!!
本日二度目の声を上げながら(声エロイ…)名前が寝返りを打つ。そのおかげで胸の上にあった手が無造作にその場に落ちる。よかった、うん。安心、ものすごく残念…いや命拾いしました。ホント寝返り打ってくれてよかっ…た
イヤハァァァーン!ぜんぜんよくねエエエエ!!そのせいで名前の細く長い脚がTシャツからいやらしく覗く結果になった。きわどい、これはきわどい!
色々と危険を感じ(特に下の方)すぐさま名前から距離を取り、部屋の隅に前屈みになりながらパニクる頭で考える…。
酒のせいもあって思い出せない昨夜の出来事、同じ布団で寝ていた俺達、しかも名前はTシャツ一枚…そういや下着つけてなかったような、てことはパンティ…下着つけてないって事に…。もう少し脚をずらしてくれたらな…って俺も上、裸じゃねーか!!
あれ
あれれ
あれれれ?

あれれれれ?!


そこで一つの可能性が出てきた。出てきたというか、ほんとは気付きたくなかっただけで考える事を拒否していただけだけど。まさか…この状況から察するに、あはんうふん的な。子作り作業的なアレをやっちまったんじゃねーか俺!!?
酒の勢いで事に至っちゃった的な?男女の営み的な?
ノォォォォォオオオ!!!!


その場の勢いならなおさら、避妊なんてしてないハズ…。マサカ○出し!!?

あ、パンツ見えそう。履いてなかったらどうしよう。襲ってくれと言われてるみたいなんだけど!どうしよう変な気分になってきちゃったよオイ!少年が大人になる時がきかけてるってこれマジで!!青年…否、性年になる…って違うだろ!
おいおい嘘だろ嘘だよね、まさかねアハハ!冗談キッツー!
まだ告白とかしてねーしキスだってまだ…いや、キスはしたのかも…アレ、だったら告白みたいな事もしちゃったのかな?かなじゃねぇよ!最低じゃねーかァァァァ!!!
どうしよう、名前が起きて『酷いよ銀ちゃん…あんな無理矢理…』

……イイ!! 責任とらせてください!喜んでー!!

『ごめんな…でも、誰よりも愛してるんだ』
『銀ちゃん、嬉しいっ…!』


ハイ、誰コレェェェ!! 
そもそも、そんなバラ色な展開があるわきゃねーだろ!
あ。パンツ見えたかも…あーあともうちょい左足上げ…て、って俺のバカ!死ね!!反応すんなバカムスコ!!こんな虚しい掛け合いやめてえええええ!
一人で盛り上がっていると、むくりと名前が上半身を起こす。

「………」

死のカウントダウン開始ィィィィィィィ!

「んー…」

眼を擦りながらキョロキョロと辺りを見回し、俺を見つけるなり天使の様な愛らしい笑みを浮かべ、天女のような澄んだ声で「おはよ、銀ちゃん」言って、微かに小首を傾ける名前。
(少し掠れ気味なのがまたエロイ。あんなの反則だ)


ごめんなさいごめんなさいマジですんまっせん。俺は彼女の純潔を奪った罪人です。悪魔です。魔人です。ブゥです。サイヤ人になりたいです。

「どうしたの?」


名前は目が合うなり土下座を決め込んだ俺に近付き、目の前にしゃがみ込んで床に額を擦り着ける俺の頭を優しく撫でた。
あ。パンツ見えた。


「本当、覚えてないながらマジすんまっせんでした!もうホント喜んで責任取らせて貰うんで!俺と結婚してください!」

「…え…?」


おそるおそる赤くなった額と共に頭を上げれば、目を見開いてキョトンとした顔をする名前と目が合う。今まで俺の頭にあった手を自分の口元まで持っていき、今度はクスクスと笑いだした。


「あはは、ふっ…あはっ、はは…どうしたの、急に?…覚えてないって、何が?」
「だっ、から…酔った勢いで無理矢理名前を抱い…」
「あたし抱かれてないよ?」

「……は?」
「昨日一緒に呑んでて、あたし服にお酒こぼしたでしょ?で、銀ちゃんがTシャツ貸してくれたんじゃない。だから銀ちゃん上 着てないでしょ?」
「………」
「そしたら、いきなり萌だー、とか言ってあたし抱き枕にして寝ちゃうんだもん!あ、布団は新八君が帰る前に敷いてってくれたんだよ」


お礼言っとかなきゃ、と付け足してニコリ、と笑う名前に何もなかったんだ(抱き枕にしたみたいだけど)と一安心する。ちょっと残念な気もしないこともない。


「そういえば、銀ちゃんさっきあたしの胸揉んだでしょ」

エッチーと(黒く)笑いながら鼻を摘む名前。あれ、起きてたの?


「ふかこうひょくらって!事故らよ、じほ!」
「てーか、さっきからパンツばっか見てんじゃねーよ変態」


ほんの一瞬、笑みを消し、瞬きすると今度は一瞬にして絶対零度の微笑みを浮かべ、鼻を掴む手を再び頭へと移動させ そのままぐいっと引っ張られ床とキスする羽目になったのは言うまでもなく。頭を押さえられ上げるに上げられない頭、耳元にフーッと息を吹きかけられる。




「でもね、銀ちゃんになら襲われてもよかったかな、」

そこまで耳元で告げると、ちゅっと頬にキスを落とす。


「…なんてね」


言って、手を離した名前はそのまま静かに部屋を後にした。



「っ…反則じゃんねー、今の」



閉められた襖の側で名前が真っ赤な顔でへたり込んでいるのを知るのはもう少し先の話…。         





バラ色的な淡い色



(お嬢、顔真っ赤ネ!)
(…ちょっと、大胆過ぎたかも…)
(?……銀ちゃーん!お嬢の顔が熱いアル!)  
(わー、もう!…顔見れないよー!柄じゃない事するもんじゃないね!)