てにす | ナノ
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「海開きに伴い私達、真選組もやって参りました!母なる海っ!みんなぁ、今日ははっちゃけて行こーぜ!」

幹部の私の声に賑うその場…こーゆー一体感って大好き、凄く素敵。わくわくしてくる。




「酒だァァァァァァ!!!」

「え…ええぇぇぇ!!?」


一人唖然とし持っていたスピーカーを落とす私を余所に、隊士達がいそいそと動き回っている。シートを広げ、酒やらつまみやらが並び着々と宴会の準備が調っていく。涙が出そうだ。沖田隊長にいたっては用意もそこそこに既に飲み始めている。どこから持ち出してきたんだろう…。ああ、眩暈が…。


「海、なのに…泳がないの…?」


力無くその場にへたり込む。なんとも言い難い悔しさと裏切られたような衝撃が海の如く波の様に押し寄せる…。青い空白い雲、燦々と降り注ぐ太陽の恵、青い海と白い砂浜、夏の音波の音…香るのは酒の臭い。…泣きたい!!母なる海と謳われる生命の源を前にふざけやがって。



「バカヤロー!!!!」
クラゲにでも刺されろ酔っ払い共ォォォォォォ!!!飲み比べに熱を上げる隊士を背に海に向かって叫んでやった。


「なーにやってんでィ」
「沖田隊長…」

グズグズと先程とは打って変わり涙声で、波打ち際まで歩いて来た隊長に声を返す。



「隊長それお酒!!」
「名前ちゃんもどうですかィ」
「酔ってるし…隊長未成年でしょ!」
「硬ってー事言いっこ無しだぜ」

頬を高潮させ、酒瓶片手にヒックとしゃくる隊長を目の前に、次に口から出たのは大きな溜息。どうした物かと、もう一つ溜息を今度は小さく吐き出し、隊長から酒瓶をひったくる。それをぎゅっと胸に抱えて隊長から2、3歩離れる。「何すんでィ」キッと睨んでくるも今の隊長じゃあまり効果はない。

「あのですね、隊長」

一拍置いて続ける

「私達未成年の飲酒は身体に悪いんですよ?若いんだから、今からそんなんじゃ攘夷志士捕まえられなくなっちゃいますからね」


最後の方は弱々しくなっちゃった。だってもう目の前の酔っ払いはトローンとした目つきでボンヤリこっちを見てるから。ちゃんと私の言葉が届いてるか解らないや。酔っ払いめ。こんな所を攘夷志士が攻めてきたらどうするのよ。なんだか切なくなって、抱えていた酒瓶を隊長に返して「一人で泳いできます…」って拗ねた子供みたいに背を向けて水を蹴りながら沖へと歩く。


「…おい」


  ヒュン…

「っ!?」


おい、それだけ。短い単語に続いて隊長に返したばかりの酒瓶が頭のすぐ横を真っ直ぐ通り過ぎて、声にならない悲鳴を喉に詰らせる。
ボトっと数歩先に落ちた酒瓶から中身の酒が零れては、波に攫われて海に取り込まれていく。ななななんって事しやがるんだあの糞上司!つーか酔っ払い!!バリバリ中身入ってたじゃねーか!!投げたよあの馬鹿!私に向かって投げたよあの馬鹿!!酔っ払いのくせに力凄いよ!アレ当たってたらアレ凄いよ!アレ多分アレ痛いじゃ済まされないよアレェェェェ!!!



「あぶ、危ねーじゃないですか!信じらんない!!」

怒りに任せて振り返りヒステリックに叫んでやると、あらま吃驚。いつの間にか真後ろに居た隊長の顔が目と鼻の先にあって心臓が悲鳴を上げた。この人本っ当心臓に悪い!さすがサディスト容赦ない!!

「おい。」
「何ですか。一緒に浜辺で鬼ごっこでもしたくなったんですか。」
「俺に説教説くなんていい度胸じゃねーかィ。そんなに言うならよォ、お前に酔わせてもらいまさァ」


「……え」

次の瞬間私に覆いかぶさるように倒れてきた隊長を支えながら、また溜息が漏れた。


「…酔っ払いに言われてもねぇ…」



ほんのり赤い顔をして寝てしまった隙だらけの隊長に、紅い私の顔もきっと全て、酒のせいであって、夏のせいであって、決してときめいたとかじゃない。決して恋心とかそんな浮ついたもんじゃない。あああもう可愛い顔しちゃって…!
ほんとは結構キュンときた。真っ赤な顔に真剣な目で言った貴方にお熱な私。目が、酔っ払いにしては真っ直ぐで綺麗だったから、うんまあ、その、ときめいたってことで。
起きたら忘れちゃってるかな、なんて寝てしまった彼の肩に手を添えて切なく笑ってみたけど、本音言うと凄く嬉しいのである。




おまけ


「お、ねーちゃん一人?俺らと一緒に遊ばね?」

「は?誰が…」

「よく見りゃけっこー可愛いね、君。」

「そりゃどーも。じゃっ(よく見なくても可愛いのよ。失礼な輩め)」

「あー、ちょっと待ってよー。」

「連れないなー。」

「離して!あのねぇ、誰に向かって…」

「オイそこのゴキブリみてーな奴。」

「あ゛?」

「…沖田隊長…?」

「テメーこのゴキブリ野郎が誰の物に無断で手ー出してんだアン?ヒック…おいテメーもだぞ馬鹿女。こんなゴキブリに囲まれて喜んでんじゃねーや、こっち来い。ック、オイこらゴキブリ、その汚ねー手を今すぐそいつから離しやがれ。てか死ね。ヒ…ック、あぁんコラ!あぁん!?」

「どっちが絡んでんのかわかんねーよ!!」

「人のことゴキブリゴキブリ呼びやがって…ぶっ殺されてーのか!?」


「……(馬鹿らしー)」

「あぁコラあぁん?!公務執行妨害でテメー等全員逮捕すっぞあぁぁん?しょっぴかれてーのかあぁん?!逮捕だコラ!ヒャッォォォォーイ!!」


((((何だこの人…!))))




その後、酔拳顔負けの怪しい動きで数人の男共を薙ぎ倒す、かっこいいのかかっこ悪いのか微妙な沖田隊長が居たとか居なかったとか…。居たんです。

その後は、後ろから土方さんに思い切り拳骨喰らってのびている沖田隊長が居たとか居なかったとか…。居たんです。


「行くぞ」
「あの、沖田隊長にやられたこの方達は…」
「ほっとけ。ったく、この馬鹿は」