「ね、神田お願い!」
「断る。絶対やらねえ」
「一っ生のお願い!可愛くしてあげるからさ!」
「可愛くなってどーすんだよ」
神田が中々お姫様(シンデレラ)役を引き受けてくれないよぅ…。
まあ、当然といえば当然なんだけど。神田が相手役じゃなきゃ意味ないのに。これもどれもそれもアレンとラビが私をメイン役なんかにするからだ。そもそもお姫様なんて柄じゃないってバカにしてるんだからリナリーにお姫様役やってもらえばいいのに。それにリナリーもリナリーだよね。私にばっか押し付けちゃってさー!ひどいよもう! まあ、私は王子役って事になったんだけど。
3人組(リナリー、アレン、ラビ)の本当の目的を知らない、名前の必死の説得は更に続く。リナリー率いる意地悪親子(極悪と言ってしまってもいいくらいだ) が作戦会議を開いている事など彼女は全く知らないのであった。
そうだよね。私なんかよりリナリーの方がお姫様って向いてるじゃん。なんであんなに継母役に力を入れてるのかわからないよ。リナリーの方が、お姫様って感じなの、に―――‥‥‥
そこで名前は1つの可能性に気付く。
気付かなければと後悔しても、思い浮かんでしまったものは仕方ない。気持ちが下がって行くのにつれて首も下がってく。急に静かになった彼女に神田の頭にはハテナマークが浮かぶ。彼女の切なそうな表情に比例し、神田の顔にも困惑の色が濃くなって行く。
アレン達極悪親子がこの場に居たらすぐさまカメラを構え、シャッターを切りまくっていたことだろう。神田をからかうネタにはうってつけだ。「オイ」
「もし、もしね、リナリーが王子役だったら神田は…お姫様やった?」
「…(何故そうなる)…さあな」
「……………」
「…名前は、俺がシンデレラ役を引き受けると本気で思ってたのか」
神田のテノールが頭上から響く。こくんと、首を縦にふって肯定を示せば神田のこめかみに青筋が浮かんだ。
「私がしつこくお願いしたら、きっと神田だったら…」
「お前は、シンデレラやりたくねえのか?」
「ラビ達が柄じゃないって笑う」
「だったら俺はもっと柄じゃな…」
「リナリー達がね、神田は姫役がいいってノリノリだったよ」
「‥‥っ‥‥‥!」
更に…神田の顔に青筋が浮かんでゆく。例えるならマスクメロンだ。網目模様だ。鬼も逃げ出しそうなくらいに邪悪…こほん、恐ろしい顔になっていたとかそうでないとか。名前の首は下がったままで神田の表情は見えない。それをわかっているのか神田の顔芸は続いている。
「名前」
「…なに」
「お前、姫役やれよ」
「でも、ラビ達が笑うよ」
「あいつらなんか気にしなくていい。俺が王子役やってやる」
「………はい?」
パッと名前が花開くように首を上げる。 と同時に神田の顔から網目模様が姿を消し、不器用に細められる優しい瞳が名前に向けられた。
「神田、それ本気で言ってる? 王子って意味知ってる? くっさい台詞とか普通に言うんだよ!」
「……わかってんだよ、ンなコト。姫よりマシじゃねえか」
「(うわあ、神田が王子様っ…!)」
「シンデレラ、やるだろ」
「うん! やりたい!」
ありがとう ユウ!
嬉しそうに神田に抱き着く名前をやはり不器用に抱き返す神田であった。お姫様と王子様「でね、やっぱり私がお姫様やる事になってね、神田が王子やるんだよ」
「ええー。僕は反対です。僕にしときましょう、神田にあのベタな台詞は無理です」
「そうねえ…だったらあたし、監督をやりたいな」
「王子をしごけるのって何? 誰役ならいびれるんです?」
“名前相手じゃイジメられない…!”
2人の思いが再び1つに重なった瞬間だった。アレンがリナリーにどうします、と耳打ちしている。そんなリナリーの手には『シンデレラ(神田)イビリ隊』とでかでかと書かれた一冊のノートが握られていた。そんなリナリーの手元を見た神田が不敵な笑みを浮かべる(普段仏頂面のあのユウが珍しいさ) それを見たリナリーが笑顔で持っていたノートを一気に引き裂いたのには、アレンもラビも神田のマスクメロン顔以上に恐怖心を抱いたそうな。((ノートごと…!? リナリーなんて怪力ッ!))
「神田とリナリーの間に火花がっ…!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさっ…!」
「ちっ…作戦がパーだわ」
「この際白雪姫にしません? 神田が魔女で ―――」
「(懲りないさ…)」
里市さんへ相互記念!/