てにす | ナノ
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「めんどくさ…」



ポツリと漏らした言葉は誰に届くこともなくその場に溶けた。学校という箱は、今の私を閉じ込めて放さない。ぶっちゃけ勉強なんてしたい奴だけがすればいいんだ。だが、そんな事も言ってられない。私個人のエゴが世界に届くわけでもないのだから。
つまらない、つまらない、せめて何か刺激がほしい。授業中に求めるものじゃないけど。授業に集中できない事もあり今の私は大変退屈なのである。受験生なのに大変だね。思わず自分を責めるようなコメントをしてみた。それでも退屈はかわらなかったし、危機感というものも湧いてこなかった。

ふと、黒板を見ようと首を動かす、が隣の席の不二君に目が止まる。
(キレイにまとめてるなぁ…)
物腰柔らかく天才と詠われる、非の打ち所がない彼らしい綺麗な字でノートが埋まっている。羨ましい、かも。

(…アレ?)


「ぶっ」
「ん?」

し、しまった。
不二君のノートを眺めていたら心なしか見てはいけないようなものに気付いてしまった。
つい、あまりにも、ちょっと彼には不釣り合いな、ノートの角に描かれた

「ラクガキ…」

意外な一面を発見してしまった。まさか、アンパンマンを描いていたなんて…可愛すぎると思いませんか。


「あぁ、コレ?可愛いでしょ。最近僕が提案したキャラクターなんだ」
「え、」

不二君が? いやいや、どう見てもアンパンマンだろ。

「モデルは名前さんなんだよ、あ、言っちゃった!」 

キレイに笑う不二君。ま、まぶしい…!、じゃなくて、モデル私? アンパンマン私?
軽く、いや重く…かなり凹むんだけど。私ってそんなに丸くないよ。自分で言うのもなんだけど結構痩せてるよ。アンパンマンなんて酷い…!しかもアンパンマンって男じゃなかった?あ、でも不二君が考案したキャラクターなら女の子ってことも、なんて、そんなんあるかーい!


「ん、えーっと…」


私の顔は丸で出来ていると?…えっと、もしかしたら彼は私の事が嫌いなのかもしれない。

「この愛らしい瞳とか可愛いと思わない?ふふ、名前さんにぴったり‥あ、そっくり」

すみません、理解不能です。あ、って言い直さなくていいです。まったく、不二君たらお茶目さんなんだから、あっはっは! 泣きたい!

「つまりは、その、私のこと」
「うん、名前さんが好きってこと」
「そ、か、って、えぇえ!?」

ガタッと席を立つと一瞬に集まる視線。思わずの行動ですよ。不二君のせいだよ。まったく心臓に悪い人です。

「す、すいませーん」


ニコッと微笑まれても‥。え、何嫌いじゃないの? それならそれでよかったんだけど、いやよかったとかじゃないけど。嫌われてるよりは好かれてる方がいいし、え、好き?
不二、今サラッと好きとか言った?


「それって告白ですか」

違ってたら恥ずかしいな、冗談とか‥。ていうかその前に私どんだけ自意識過剰だよ。きくなよ。そんなわけないじゃなの!社交辞令じゃんね。ていうかあれよ不二君的スキンシップみたいな…はは。

「ごめん、冗談だよ」 
「あ、やっぱり?」
「ごめん違くて、このアンパンマンのモデルが名前さんっていうのが」

あ、そっちですか。
てゆーかアンパンマン知ってたんですね!すんごい著作権侵害な発言してましたけども!

「で、告白したんだけど返事は…今じゃなくていいから、考えてくれるかな」
「いや、今でいい!私も、す、す、すすきっ」
「すすき?」
「私も好きですーみたいな!ははは、ねえ!」
「名前さん、…授業中…」 


ハッ!先生が私を睨んでいらっしゃる…!ついでにクラスの皆の視線もい、いたい!
ここは一発アンパンが大好きなのぉ〜とかごまかしてみる?いやいやそれはそれで痛いことになる。不二君てアンパンが好きなんだってー!ファンのみんなは購買部に急ごう!みたいにキャッチフレーズ的なノリで流すとか?あ、それなら結構いけるかも…。


「先生、」
「何だ、不二…」
「名前さんが気分いいみたいなので保険室へ連れていきますね」


いやいやいや、気分いいからってアンタ。


「わっ、ふふ不二君!?先生は…」
「大丈夫、反論は許さないから」


えぇええぇ、何ソレー!!!てか、あの私が気分いいから、って何?え、天然?
(アレ、笑顔が…黒い?)

   
不二君は


あんぱんが


好きらしい

「え、別に普通だけど…?」
      



(さっきのアレね…ボケてみたんだ)
(確信犯だ!!)
(違うよ、計画犯。)
(!!?)
 



Q.どうしてアンパンマンを描いていたんですか?
A.悪いかな?
Q.滅相もございませんんんん! 
A.急にアンパンが食べたくなってきたんだ。虚覚えだったけどこんな奴居たな、って描いてた。