てにす | ナノ
×



「不二ー!誕生日おめでとー!!今年でいくつ?4歳?5歳?」
「ありがとう、英二。明日下駄箱開けるとき注意してね」
「ニャッ?!」


からかう様に笑う英二に黒い笑顔を向ける。怯んだと同時に口を閉じた英二に満足し、頬杖をつきながら教室のドアを眺める。なんだか気付いたら探してるんだもんなぁ。僕も相当浮かれてるね。
いつもは誕生日の前日か翌日に祝ってもらってるから。でも今年は当日に祝ってもらえる。閏年っていうのも悪くない。ここ3年とちょっと違った祝い方をされるから。これはこれで楽しい物だ。
小さい事かもしれない、でもそれが嬉しいんだ。だって僕の可愛い彼女はどう祝ってくれるのかな、なんて期待もしちゃう。
 

「不二、名前来たよー」

英二の指さす先に名前が立っていた。


「いいよなー、不二は。俺も彼女ほしいにゃー」
「猫が恋人なんて悲しくない?」
「人間の女の子に決まってんだろー!」

そんなやり取りをしてる内に名前が僕の隣へと座る


「おはよう名前」
「うん、おはよ…じゃなくって!!」

座ってすぐにイスから腰を上げる名前。ナチュラルな動きに僕達は揃って名前に目を向けた。いやなんていうか優雅に、っていうのも変だけどそれくらい自然かつ綺麗な流れでの起立だった。
あれ、もしかしなくても機嫌悪い? 

「え、何、おめでとう?」
「違う!」

バンッと机を叩けば、教室に居る生徒の目が一点に定まり、静粛に包まれる。


「何っで今年が閏年なのか私は聞きたい!」
「…?…、四年に一度の日で、今年が四年目だからじゃん?」
「だったらどーして今年が四年目なのよ!」
「し、知らにゃい…」

お前の彼女おかしくなっちゃってるぞ的な視線を、助けを求める様に送ってくる英二。うーん、機嫌の悪い名前ほど扱いにくい物もないと思うな。

「名前、少し落ち着こう?ホラ、座って」
「どうしてなのよっ!」

顔を真っ赤にさせ怒っていると思ったら今度は眼に涙を浮かべ泣き出してしまった。ヒステリック。

「ちょっ名前!?」
「何かあったの?」
「あったわ、大アリよ。誤算だった…まさかまさかよ、今年が閏年だなんて誰が思ったでしょうか!まさか今年だなんて誰も思わないわよね?」

涙を拭き、腕を組みながら今度は淡々と語り始めた。

「タイミング悪い閏年よね、まったく。本当だったら…2月28日の23時59分に周助にラブコールして3月1日のちょうど12時、別名シンデレラ時刻に“おめでとう周助…12時だけの魔法だね”キャッ!なあんて乙女な祝い方をしたかったのに、あるんだもん29日!私の計画パーじゃない!私のロマンチックタイムを返して!今すぐ、利子付きで!」
「名前サブッ!!不二、名前のキャラがおかしいにゃ」
「そうだねー」
「ていうか名前さあ、せっかく29日があるんだからさあ、29日の瞬間に電話してもよかったんじゃない?出遅れてるニャ」
「………誤算だわ!」
「またかよっ!」

これには僕も肩をすくめるしかなかった。 

「来年やれば?」
「わかってないわねバカ猫。私は今年やりたかったのよ!」
「バカねっ、お前のドコが乙女だ!」
「スベテよ!!」

ぎゃあぎゃあ騒ぐ二人に仲裁を入れ、生徒達に向き直る。


「二人共、注目の的だから」

そう言って二人を見ると、口を閉じ、静かに席に着く。

「あの、周助、…おめでとう」

僕の顔色を伺う様に遠慮がちに呟く。あ、気にしてたんだ。あれでも…てっきり自分の計画が狂った事に腹を立ててるだけかと思った。そう言えば名前は酷い!と眉を下げながら怒った。もちろん冗談なんだけどね。僕のために怒ってるんだと思うとそれだけで嬉しくなるから、それだけでいいよと言いたくなる。まあ別に怒ってるわけじゃないけど。少し期待してただけに残念ではあるかな。でも、まだまだ時間あるし、ね?

「ありがとう」

誰に言われても嬉しいけど、やっぱり名前に言われなければ、この日だってそこまで素敵だなんて思えなかっただろう。何気ない祝福の言葉、名前に言われれば掛け替えの無い大切な言葉。生まれた日を彼女が祝ってくれる、嬉しいと思ってくれる。それで心は満たされる。

「あれ、プレゼントは?」

こーゆーのをKYって呼ぶのかな。水を指す様なバカ猫の一言に名前の肩が跳ねた
ほんと…自称ムードメーカーならもっと空気を読んでくれないかなあ。ムードクラッシャーなんじゃないの?

「あ、もしかして何も用意してにゃいんだ!」

コイツKY決定。いいじゃない僕がそれでいいと思ったんだから。名前イジメも程ほどにしてくれないと困るんだよね。本気で名前の機嫌が悪くなったら僕にも止められないんだから。終いには逆切れするよきっと。

「いや、ほら、計画を用意しました!!」
「未遂じゃんっ」
「来年がある!」
「今年じゃなきゃ意味ないんだろ?」
「……う…」

ケラケラと笑いながら名前をからかい続ける英二のスネを蹴り黙らせる。悲痛の声をあげバランスを崩して、後ろに倒れイスから転げ落ちる英二。

「ラブコールがプレゼントですー、みたいな、すいません」 
「いいよ、別に。祝う気持ちがあれば。それだけで僕は嬉しいから」
「でも。あ、…じゃあ、私なりに祝う」
「…名前なりに?」
「うん…あ、」
「あいたたたた、お前今足蹴ったろー。それとも不二?」

…KY復活。


「英二、あとはうまくよろしくね」
「え、何?」

ニコっと目を見張る程綺麗に笑うと、そのまま僕の腕を引き教室の外へと向かう。名前の機嫌がなおるならこんな日くらい振り回されてもいいかな。ていうかしょっちゅう振り回されてるけど。そこはうまく忘れる事にしておこう。

「何処か行くの?」
「どっかデート!」



突飛な発想


教室を出てすぐに捕まって連行されたのは、また別のお話。 
(どこ行く気だ。チャイム鳴ったぞ!!)
(デートしてきます!)
( 戻 り な さ い )
(………………)  



不二バースデー記念第二弾。
何を書きたかったんだろ…←