てにす | ナノ
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好きになってしまったの。叶わぬ恋と知りながら、あなたに堕ちてしまいました。人を不幸にしか出来ない私は、あなたのそばにいることさえできません。それでも、ずっと遠くであなただけを見詰めてきました。あなたはきっと、そんな私を知らないでしょう。これからも、ずっとずっとあなたを思い続けると私は、誓いました。それだけで私は幸せになれるのでした。どうか、どうかこれからもずっと…。そう思ってきたのに。思い続けてきたのに。私の存在をあなたに気付かれる事もなく遠くから見守ってきたというのに。あっけなく終わりは近づいてくるものです。あの人には、意中の女性がいたのです。いつから、なんて気付かせないほどにそれはあっという間で。女性があの人に笑いかけるたびに、黒い感情が渦を巻きます。あの人が彼女に笑いかけ、触れるたびに、泣き叫びたくなります。ふたりをみていると、私の世界は憎悪に包まれてしまいます。ああ、どうか、どうか白い、真っ白い綺麗なままでいて。私の愛したあの人だけは、汚されないで。私の思いだけは、いつまでも輝いていて。そう願えば、とても素敵な気持ちになりました。ああ、ああ、私はこんなにも綺麗な気持ちであなたを思っています。泣きそうなほど、狂おしいほどに愛しているのです。けれど、気持ちだけではもう駄目でした。歯止めがきかないところまできてしまっている。それほど深くあなたに溺れていたのです。ふたりがお互いを愛しそうに見詰めあうところを目にして、我慢が出来なくなりました。

気付けば私はあなたの目の前に立っていて、言葉を交わそうとしていました。にっこりと微笑めば、彼は目を見開いて黙ってしまいます。やっぱり、私はあなたの中にはいなかったのですね。とても切ない気持ちになりました。けれど私はそれすらも愛しいと感じてしまいます。重症です。
「こんばんは」挨拶を交わした事もなかったけれど、やっと、やっと言えました。彼の目の前で。どうして早くこうしてしまわなかったんだろう。とてもとても簡単で、幸せな事なのに。
ややあって、彼が口を開く。「……おう」彼はぶっきらぼうだけれど、ちゃんと答えてくれました。私をその目に映しながら。「私は、あなたをずっと見てきました」そう告げれば彼はひどく驚愕した表情で私を見ます。その瞳に映っているのは私。揺れる、瞳。「ずっと、あなただけを愛してきました」そう言えば彼は一歩後ずさって私と距離を作る。くすり、笑って、私も一歩、二歩彼に近づく。

「きっと、これからもずっと―――」

そっと、彼の心臓の辺りに手を伸ばす。


ドクドク、ドクドク、ドクドク、ドクドク、ドクドク、ドクドク、ドクドク、ドクドク、ドクドク、ドクドク、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクンドクン…トクン、


鼓動が、掌から伝わってくる。じんわりと、滲み出るように私から笑みが漏れる。「…な、にを…」
「もっと、はやくあなたに触れたかったの」
ゆっくり、ゆっくり、口角が上がっていく。やっと…触れた。恐れていたとは思えないほど、自然に。こんなにも暖かいあなたの体温。やっと私のもになった。

「ふふ、ねえこれで、あなたも私を好きになってくれるかしら」

トン、と心臓の上に添えてある手に軽く力を入れ彼の身体を押すと糸も簡単に後ろへと倒れる身体。鼓動が、小さくなっていく。掌から、心音が離れたのだ。―――離れた。
「はじめから、こうしてればよかったのにね?」

トクン、トクン、トクン、トクン…ドクン、トク…………ン


私の手は、不幸の手。私の手は、氷の手。触れた物を、不幸にしてしまう。触れた物を凍らせてしまう。あなたの心臓も、私の手で凍らせてあげるの。こんなにも、簡単な事だった。初めて、私の手で人を幸せにしてあげたの。
最期に映ったのが私だなんて、逃れようもないわよね?




抜き取った魂

瞳に映したのは恐怖




イメージは死神でお相手は土方さんでした。結果死ネタになってしまい、抽象的な感じになりました(キャラを死なせるのは嫌いなので/じゃあ何で書いた)