てにす | ナノ
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彼女は、きっと俺の事が嫌いなんだろう…。

俺が何かしてしまったのかもしれないし、傷をえぐるつもりは毛頭ないので彼女本人にはきけないけれど、思い返せば、嫌われてる、と どうして気付かなかったんだろう。気付いた時には遅すぎた、そう言っても過言ではない。目が合えば顔ごと逸らすし、話しかけてもそっけないし、ていうか堂々と無視するし…どうして気付かなかったんだろう。そして…極めつけはこの事件だ。
その日の放課後は、たまたま国語のノートを教室に忘れたから取りに行ったんだ。普段は、国語のノートなんて忘れても気にしないはずなのに、その日はたまたま取りに戻ったんだ。気まぐれ、だった。 教室で、見てしまったのだ。俺の意中の人とも呼べる彼女が、一人教室の片隅で‥

「んっだよ、山崎のヤロオオオ!ナメクジみてーな、いやらしい目ェしやがってよォォォォ!」

俺への愚痴をこぼしているのを…(な、ナメクジッ…!ガーン)
本当に、たまたま見かけてしまったのだ。なんてことだ。彼女が、俺の椅子を蹴りながら俺への本音を吐き出していたのを。そこで俺は気付いてしまったんだ。3cmほど開いたドアの隙間からその光景を見ていたけど、あれは酷かった。悲惨だった。それでも好きでいた俺はなんて愚かなんだ。彼女が俺に対する思いに気付いた時にはもう戻れないくらいに…好きになってた。もっと早くに気付いていたなら。
俺の椅子もハートもボロボロだよ。流石に好きな女の子にあれだけ言われて傷つかない男子なんていない。当初の目的も果たせぬまま彼女の動向を見守る。暴言は終わったものの未だに彼女の椅子への暴行は終わっていなかった。俺自身を蹴られているみたいだった。ああ、近藤さんの気持ちがわかってしまったようなそうでもないような。とりあえず苦しかった。体が震えているのは悲しさ故か。暫くして彼女は椅子を元の位置に戻し、くるりと180度向きを変えすっきりした面持ちでこちらに歩いて来る。この時の俺は好きな子にボロクソ言われたことがショックで放心状態だった。ていうか俺…失恋?
彼女が俺の姿を捉える前に身を潜める。非常に気まずい。涙目で彼女の背中を見送る。
姿が見えなくなったのを確認してから目的のノートを取ってくるためにボロボロになった椅子の所まで歩いてく。近藤さんの椅子とお揃いなのにむなしくなった。あれ、なんか涙出てきた。普段自分が座っていた椅子は今や俺の心を具現化したような変貌だ。変貌ぶりに思わず絶句。


―――まあそんな事があり、俺と彼女の間に大きな溝が出来てしまったのである。
あの日あの場に俺が居合わせた事を彼女は知らないし、仲が良かったというわけでもないので、出来てしまった溝は傍から見ればうっすい、トイレットペーパーみたいなもんだけれど、俺からしてみたらジャンプ創刊号よりも分厚いのである。俺ってなんでこうも不幸に見舞われるんだろう。ここまで来ると自己嫌悪を通り越して笑いが込み上げてくる。…乾いた笑いだけど。ははは。自分の悲しい宿命だ。

と、思っていたのだけれど。何故か俺は今呼び出されているのだ。目の前にはあの日とは一変した彼女がいる。いつもどおり、というかちょっとソワソワしたような感じの彼女が、俺の目の前に、いる。しかも、しかも、ここここ告白の定番ともいえる体育館裏(決してリンチの類とは違うと主張しよう)。え、これって?え?
俺の事が…嫌いだったんじゃ…え?!淡い期待に頬が綻ぶ、のを必死に押さえ込み彼女の言葉を待つ。ただ俺が混乱と動揺のせいで声が出せなかっただけだけど。青く澄みきった空が、さんさんと輝く太陽が、俺達を照らす。風が心地よく2人の間をすり抜ける。目の前の彼女は口を閉ざしたまま耳まで高潮している。昨日の彼女とは嘘のような変わりようだ。俺にも春が来るチャンス到来?愛らしい瞳が俺を見据える。無意識に俺もゴクリと喉を鳴らした。彼女がゆっくりと、言葉を紡ぐ。

「あ、あの、あの山崎君!」
「うううううん!」

俺ェェェェェェ!何どもってててってて…!!!

「わ、わた、し…山崎君のことが」

ぎゅ、っと彼女が目を瞑る。俺も深呼吸する。お互いに緊張はピークのようだ。さあ、悪戯に風が吹きぬけ、2人の髪を揺らした。彼女が意を決したように目を開いてスカートの裾をぎゅ、と握る。何だか、俺の心臓を捕まれたような気がした。ぎゅっと、わしづかみにされる様に。微かに、その手が震えていた。

「…山崎君」
「う、うん!」

「す‥好きっ」「ぶえっ くしょい!!」


・・・・・・・・・あ


「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」

高潮した顔は一瞬にして青ざめ、俺がアッパーカットを喰らったのはその3秒後だった、とか。
花粉症ォォォ!テメェェェェェ!




「ふざけないで!」
涙目の彼女に土下座で想いを伝えたいと思います!

きっと俺を嫌っているのは彼女じゃなくて、神様なんだろ!



素直になれない照れ隠しが激しい女の子☆って設定があったんですが、見事に玉砕しました。
椅子蹴りながら悪口言ってたのもきっと照れ隠しなんだろうな!