てにす | ナノ
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人でなし、とか、いじめっ子とか、散々言われても傷付いた顔一つせず、「そりゃどーも」って皮肉のように返すだけ。
酷い人、とか、冷血人間、とか、怖いって言われても傷付いた顔一つせずに「なんとでも」ってそっけなく返すだけ。
誰かが、沖田を悪く言うたびに私は怒って、時には拳を振るったりした。沖田が悪く言われた分、私は悲しくなって。
それでも沖田は大丈夫そうな顔をして豹豹とした態度を続けて。それが沖田だってわかってるから私は何も言わなくて。沖田が、「俺のために怒ってくれるお前がいりゃいいんじゃねーの」なんて無表情で言うからだ。何も言えなくなったのは。それでも何も知らないで、妬んですき放題言う、そんな奴等が私は許せなかった。
本当の沖田は正義感が強くて、ひねくれてるけど本当は優しくて、アホだけどいざって時は決めちゃうんだから。みんな、いい所を理解しない。沖田を、理解しない。女の子達は口々にかっこいいとか騒ぐけど、わかってないよ。ちゃんと沖田を見て、向き合ってよ。かっこいいって何、顔がどうとかいう前に沖田はかっこいいんだよ。

沖田が大好きな私は土方さんが嫌いだった。ひょっこり出てきて、沖田の方が付き合いの長かった近藤さんを奪っていった。沖田のお姉さんまで取り上げてしまう。沖田のお姉さんと土方さんが一緒にいるときとか、土方さんと近藤さんしか知らない話をしているときとか、そんな時だけ寂しそうな顔をする沖田を私は見てきたんだ。悲しそうに笑う沖田を何度も見てきたんだ、傍らで。

私にはない物を全部持っているミツバさんも、私には出来ない事をやってしまう近藤さんも、私から沖田の視線を外してしまう土方さんも、私は大嫌いだった。絶対に口にはしないけど。沖田に嫌われたくないから。それは、絶対に、イヤ。
土方さんもミツバさんも近藤さんも、皆嫌い。だって、沖田のいい所をみんな知ってる。沖田をわかってる。私から沖田を取り上げてしまう。沖田に、大事にされてる。彼等は沖田の特別だから嫌い。私だってその中に入りたい。他の奴等も嫌い。何にも理解してないくせに何かと理由を付けては悪くいう。沖田は何もしてないのに悪者にされる。―――結局私はなんなんだろう。沖田を理解してもらいたいくせにわかって欲しくない。理解してしまう人達に、嫉妬して劣等感抱いて、いじけて嫌いになってしまう。そんな自分に何故か泣けてくる。ちっぽけな自分という存在が疎ましくて、こんな私が沖田を好きなんだという事実に悲しくなってきた。ああ、私はこんなにも狭い世界で沖田を見ている。
何で私以外に人間がいるんだろう。私一人だったら、沖田はきっと私をみてくれたんだ。私を特別にしてくれたんだ。こんな私が沖田を好きだなんて、なんて、おこがましい事なんだろうか。涙が、止まらない。

「オイ」

ハッとして声のした方を見ると沖田がいる。沖田…が、目の前に立っている。何でいるんだよ。

「おき…」
「何泣いてんでィ」
「!…知らないっ」
「まーた、喧嘩でもしたのか?」
「……してない」

長い沈黙の後、沖田が手を頭の上に置いてポンポンと撫でられる(叩かれる、って言った方が正しいのかな)沖田の手はあったかくて好きだ。

「嘘吐きはドロボウの始まりなんですぜ?」
「……しました」
あっさり認めた私に沖田は笑った。
「また何で?」
「…沖田の悪口言ったからだよ」

膝に顔を埋めて、涙を止める事に専念する。

「どっか殴られたんですかィ?」
「…………」

無言のまま頭を振る。

「どっか痛い?」

また無言で頭を振る。なんだか今日の沖田は心配性だ。

「どうして沖田のいいところ、みんなわかってくれないの?」
「俺がいい奴じゃないからじゃねーの?」
「どうして、私以外に沖田のことわかっちゃう人がいるの」
「俺が好きだからじゃねーの? 総悟君モテモテー」
「………バカ」
「そんなバカな俺のために怒っちゃうお前の方がバカなんじゃねーのか?」
「……………」
「なぁ」

名前を呼ばれる。私はまだ顔を埋めたままだ。沖田が頭を掴んで無理矢理顔を上げさせる

「…なに」
「まだ誰にも言ってない事、最初にお前に言ったら泣きやんでくれやすか?」
「……わかんない」
「まぁ泣いててもいいけど…」

珍しく沖田が笑っている、それも楽しそうに。こんなに楽しそうな沖田は久しぶりに見た。両頬に添えられた沖田の手によって、顔を動かす事は不可能で。仕方ないので目だけ下に移す。

「お前に好きって言ったら、笑う?」



また、泣きそうです



/ソミュール

私の中の沖田のイメージを出そうとしたらよくわからない話になってしまいました。