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##p102##の続編的な。 私の前をゆっくりと歩く彼の背に惹かれるように私は彼の通った道を辿っていた。声を掛けることも出来ないままもやもやした気持ちを半分抱えて彼を追う。その事自体への迷いはなくて、ただただ声を掛けたいのにかけられない緊張だけを持っていた。彼がふいに立ち止まる、気付けば玄関まで来ていた。そのまま彼は靴を履き替える。一瞬だけ、彼が初めて私を見た。そこで漸く絞まっていた喉が声を通した。 「待って!」 彼が行ってしまう。焦り、そして出た声に後悔した。きっと感じ悪く届いてしまっただろう。でも彼はまたつまらなそうなあの目で私を映しただけだった。ドキリ、背中になにか圧迫したものを感じた、まただ、この感じ。これは一体なんだろうか。 「何」 なんとも思ってないような声で私に投げかけるその声色は本当に何も、何とも思ってないような、感情の無い声だった。退屈している、そんな訴えを持っていた。ひんやりとしたその視線にさえ吸い込まれそうだった。これもまた魅力の内なのだろうか。とはいうものの、引き止めたはいいが何を次に言えばいいのか解らなかった。聞きたい事は色々あるはずなのに形に出来ない。この短時間で全てを感情のまま文章に直せるほど私は冷静でもなかったのだ。 「さっき…何かしたの?」 自分が今とても恥ずかしい。ごちゃごちゃした頭の中で出た言葉があれふだなんて、自分の頭の弱さを彼に見せ付けているようだった。 「何かって、なに?」 先ほどよりも微かに感情の篭った目に、少なからず私の中の緊張が解れた。彼が付けた疑問符のおかげだろうか。それでも、ほんの少しでも彼が興味を持ってくれたのだ。 「あなたが、タイミングよく…その、あの子が…」 まとまりの無い私も言葉を一つ一つ噛み砕くように彼は理解しようと耳を傾けた。わりと話はきくほうなのかもしれない。何が言いたいのかわかったのか彼は一つ小さな溜息を吐いて、数歩離れた私の目の前まできた。 「俺、今から行きたいトコあんの。アンタも来る?」 「は?」 会話が成り立っていないような…。 何がなんだか解らないまま彼の誘いに頷いて、急いで靴を履き替え先に言ってしまった彼を小走りで追いかけた。あ、背高い…。 「俺昨日たまたま見ちゃったんだよね。あのノート ボロボロにしてるとこさぁ。的になった子の陰口とかそんなんもきいてた。俺からしたら、まぁ、わかってたんだけどね。ずっとあの子らん事見てたし。ニセモノの友情的な意味で。なーんか一際目立ってたし?」 そこまで話すと彼は足を止めた。そして私の腕を取ると前に引寄せ、隣に並ぶような形になる。 「あの子が机の中に手を入れたとき、悟っちゃったわけ。」 彼の目が光る。口元に弧を描きながら、また、愉しそうに、笑った。 「アンタも思ってたでしょ?いつか崩れるとか、さ」 「私は…別にそんなこと…」 「ふーん。まぁいいけどさ。アンタいつも一人で周り見てんじゃん、だから俺と一緒なのかと思った。皆の馴れ合いに飽き飽きしてるような目、してたし」 「、」 …一緒だよ、君と。私が形に出来なかった言葉を彼はさらりと言ってのけたんだ。 私からみたらそれは魔法の呪文だった。心が軽くなって、世界に光が差し込んだみたいだった。彼の魔法だった。綺麗に、的確な言葉で私のナカを鎮めたんだよ。 「…私、も…うんざりしてたとこ」 彼の目に答えるように真っ直ぐ見詰め返しながら、吐き出した言葉には迷いも嘘もなかった。これが私の答え。うんざりしていた、それが私が吐き出した本音だった。もう、あんな馴れ合い、うんざりだった。見たくなかった。どんな理由にしろ私の中で決まっていたんだ。区別されていた。 綺麗に飾るならホンモノの友情とやらが欲しかった。あんな、付き合い方じゃなくて、ありのままの私を見てくれる、受け入れてくれる中に入りたい。奴等はニセモノ。そんな区別がついていた。でも、彼となら…。単純にもそう思った。そうなりたいと思った。純粋に。彼にかけてみたい。もしかしたら彼となら、なれるかもしれない、なりたい。そんな思いをまだ何も知らない彼に抱いていた。彼からしたら迷惑だろうか?でも、もっと知りたいと、願った。願わくば、彼もそう思ってくれていたら嬉しい。 「そんな顔してたもんね」 似 た 者 同 士 彼がまた歩き出す。私の隣で。 |