てにす | ナノ
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窓から見える景色に人影は少なく、聞こえるのはテニス部への黄色い声援。日直で残っている私と仁王。早く部活に行きたいんだろうな、とかぼんやり考えながら日誌を書いていた手を休めチラリと前に居る仁王を盗み見る。イスに跨りイスの頭に頬杖を姿すら様になる仁王…(かっこいいなぁ。)


「終わったんか?」

じっと見ていたらふと交わる視線

「あとちょっと待って。早く部活に行きたいのは分かるけど、私にもペースってもんがあるのよ、いい?」
「はいはい、わーった」
「大体ねぇ、早くしろなんて言うくらいなら仁王も手伝ってよ」
「誰も早くしろなんて言うとらんじゃろ…」  

今度は私が「はいはい」と返す番だった。 

「えっと、今日の一時間目っ…」

太陽を被い隠していた雲が流れ、窓へと光が差し込む。急な刺激に目を瞑り、再度目を開けるとそこに…夕日が仁王の髪をキラキラ照らした。(キレイ…)不覚にもドキリとしてしまった。(ガラじゃない、かも)男の人に綺麗なんて言葉はどうかと思うけれど、銀色がオレンジがかって、綺麗、その言葉が一番しっくり来た。仁王の髪を暫く眺めていると視線に気付いたのか、「どうした」と顔を覗き込んでくる。

「キレイだね…」

言った後にハッとする(無意識とは言え、失礼だったかな)でも、それ以上に驚いたのは、私が無意識の内に仁王の髪へと手を伸ばしていることだった…。以外とサラサラで、繊細で、キレイ、なんてまた思ってしまった。目を細め気持ちよさそうにされるがままの仁王がかわいいなんて…かわいい、なんて…ドキリと一際大きく鳴った心臓の音。そこから段々心拍数が上がっていく。今更だけど、大胆じゃない?!体中の熱が全て顔に集結したみたい。

「私‥何してるの?」
「…さぁ?」

決して、仲が良いとは言い難い。ただのクラスメイトで、たまたま席が隣なだけ。ア、レ?じゃ、これは何だ?早鐘を打つ心臓は…何故私は手を伸ばした?この感情は……好き?嫌がるだけでもなく、ただ、瞳を閉じている仁王。私たちを取り巻く空気は穏やかで、不思議…。

「なぁ」
「へっ、なに」
「もうええか?じっとしてんのツライ」
「あ、ゴメンつい、ゃ、違うくて…」

あまりにも綺麗でかっこよくて。あまりにも貴方に触れたかった、か…らんん?落ち着かせるため、日誌に集中しようとシャーペンを握る。けれどその手は動く事なく止まったまま。ただ静かに時間が過ぎていく


「どーして、かな」
「何が。どうかしたんか?」
「仁王だからだよ、ね」
「ちょお、言ってる事がよく解らん。俺が何か、…」

私にもよくわかんない。でも、もしかしたら…錯覚なんかじゃない。

「そ、か…」
「お前さん、さっきから勝手に話し進めすぎじゃ」
「だって…」

頭ン中整理出来てないんだもん。ガタ、机に手を付き立ち上がる。仁王がどうしたのかと首を傾げるけど、今は私が最優先。そのまま、仁王が座っているイスの横まで進み、仁王を見下ろす形になる。

(抱きしめても、いい?)
「何で?」


「だって君が好きだから」
抱きしめるはずが逆に抱きしめられたそんな包容。