てにす | ナノ
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激ダサだぜ。今の俺はほんっとダサい。激ダサ。ダサすぎて笑える。いややっぱ笑えない。これは笑えない。しゃれになんねえ。つうか俺ダサい。







「そういえばさ、宍戸今年お年玉貰った?」
「貰ったぜ?」
「へぇー いくら?」
「何だよ急に。まぁ3万くらいもらえたけどよ」
「いいなぁ。私今年貰えなかったんだよね。」





夜のファミレスを見回しながらそう呟くコイツは、俺のクラスメイトだったりする。俺の好きなヤツだったりする。どうして好きの一言がいえないのかと考え出すと無性にやりきれない。だって言えないんだから仕方ねえじゃねえか。

心の準備もいざとなっては役に立たねえ。俺は片思いして数ヶ月、気付いた事がある。俺に必要なのは心の準備よりもきっかけだ。甘い雰囲気よりも、告白するタイミングよりも、言わなきゃというきっかけが欲しかった。勢い任せだっていい。好きと伝えたかった。自然に、とまではいかなくていい、だから何かの弾みが欲しかった。
そうこう考えてるうちに、本日 2009年1月6日。だらだらと新年を迎えてしまった。片思いも1年を迎えた。


唯一褒められるとしたら目の前でコップに入ってた氷を噛み砕いてる頬袋パンパンの間抜け面したコイツを初詣に誘えた事だ。




「じゃあここは金持ちの宍戸くんが奢ってね」




下から覗き込むように嫌な笑みで随分と厚かましい事を提案してきた。いやいやここは勿論男の俺が払うけども。




「じゃあ、帰りはお前チャリ漕げよな」
「えぇー、無理無理。宍戸重い無理」




無理ってコイツ3回も言いやがった。しかも重いとか。軽くズキっときた。女々しいぞ宍戸亮!激ダサだぜ!自分に渇を叩き込む。






2人分の代金を払って外に出ると、冷たい空気が顔をすり抜けて体温を奪った。




「さむー」




寒いとはしゃいでんのかわかんねえがとにかく騒いでるこいつを見てなんかコイツみてると和むなと一人思った。アホっぽくて笑えるけど。当の本人はそんな俺の思考を知ってか知らずか、ほわぁぁぁ〜なんて上に向かって息を吐いている。





「白い。……寒いね。」






寒い寒い連呼しながら俺の首に巻いてあったマフラーを強奪される。俺の首筋に風が当たった。やべえさみィ。





「何すんだよ!返せ」
「ひゃああー宍戸くさい」
「ああ?!」




俺のマフラーと体温奪っておいてくさい?!コイツ失礼すぎ!




「じゃあ返せよ!」
「いやだぁー!何で怒ってんの。宍戸の匂いがするって言いたかっただけなのにぃー。宍戸の匂いでいっぱいだぁ」
「っ返せ変態!」
「うっせムッツリー」






ケラケラ笑いながら自転車にまたがると「カモンにーちゃん」なんておちゃらけた調子で俺に手招きしてきた。





「何でこんな女好きなんだ自分」








溜息を吐きながら後ろに跨った瞬間、ガシャーンと自転車が転倒する。おおお、視界が横にずれていく、と思った瞬間に地面とご対面した左足がじんじんと痛んだ。





「いってぇぇぇぇぇええええ!!」
「ばっ、何やってんだテメーは!」
「宍戸こそなにやってんの!重いし!」
「悪かったな!お前力なさすぎ!」




なんとか半分 自転車の下敷きになった身体を抜き出して、倒れたままでいるコイツに手を差し出す。




「このタイミングで告白とかありえない!」






 ………ん?



え、今、え?なに、告白?いつ言った俺。勢い任せでもいいとは思ったが、俺が覚えてない勢いなんてありなのかこれ。とりあえず好きっていったっぽいからよしとしよう。つーかマジで言ったの?いつ?何時何分何秒?なにこれ夢?初夢?いやいやもう6日だし初夢じゃないな。





「はあああ?!こ、こ、こくは、何言ってんだお前!」

「しかもなかった事にするとかお前どんだけヘタレだよ」

「俺覚えてないんだけど!」

「宍戸マジ信じられない!」

「お前妄想でもしてたんじゃねー」

「なにそれバカじゃない?!それじゃ私が宍戸を好きみたい」

「じゃ、じゃあ、あの、返事きかせろよ!」

「はああああ?!」

「だって俺お前に好きっつったんだろ?!」

「な、ちょ…い、いやだ!」

「い…!……そ、そうかわかった」

「私もっと雰囲気のあるトコでしか告白とか受け付けないし!」

「どんだけ上から目線だ」

「とにかくとにかく、出直してきなさい!」

「は、はい…(マジでー?!)」













そりゃないだろ

お嬢様は甘い雰囲気ご希望らしい










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姫宮あげはさんへ7万打企画/とある日のとある空