てにす | ナノ
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男3人で狭い、しかも厠の個室に篭ってるなんてムサ過ぎて気持ち悪いと思いませんか。


つい先程トウモロコシを片手に声を潜めた山崎君に「副長と沖田隊長に清蔵さんが厠の一室に篭ってた」と教えてもらった。ちょっと楽しそうだったな。ぶっちゃけそんな気色の悪い情報いらなかった。あの3人を見る目変わりそうだよ。ある意味衝撃を受けた。ていうか興味本位で聞いてしまった私も私だ。馬鹿だ。山崎馬鹿!山崎君の誘い文句に目を輝かせた私が馬鹿だったよチクショウ気分害した。八つ当たりに手元にあった食べかけのトウモロコシを山崎君に無言で投げつけてやった。それが今から約30分前の出来事。
そんなやり取りを廊下の縁側に座って思い出してみると山崎君には酷い仕打ちをしたなと今更になって後悔する。何か彼って当たりやすいと思うんだよねぇ。不憫な密偵だよ。地味なくせに変なところで出張ってるよ、地味なくせに。あ、地味って2回も言っちゃった。お詫びに今度ミントンに付き合ってあげよう。当然、トウモロコシを投げつけたお詫び。カバディは私には辛いわ。カバディカバディ言ってられないっての。ああーあ。私もうちょっとおしとやかな女になりたい。口より先に手が出るのはさすがにどうだと思うわけで。無意識に溜息を吐いていた。あー…

「幸せ逃げやすぜィ」

独り言として吐き出そうとしていた言葉を背後からある人物に先に言われた。声からして沖田隊長だ。他人に言われるとちょっと大きなお世話って感じがする。

「女の幸せ掴めりゃ十分ですよ。」

はは、と乾いた笑いを漏らすと突如現れた沖田隊長が「それすら逃がしそうだぜ」って笑いながら隣に座った。

「こんなとこでサボりですかィ」
「まぁそんなトコです。副長には内緒ですよ」
「俺には秘密にしなくていーんですかー」

だるそうに喋る隊長が可愛いなあぁ、なんて本人に言ったら怒られちゃうかな。

「人の事言えます?」

からかう様に言ってやれば肩を竦めて「言ってくれらぁ」って笑われた。
あ、そうだ…

「ちょっと今気になってる事があるんですけど、聞いてもいいですか?」
「俺のキメ細かい肌の秘訣とか?」
「茶化さないでくださいよー、気になりますけど。えっと…ですね、隊長って、ノン気?それともそっちの気あったりしますか?」

隊長の目を見ながら尋ねると隊長の目が微かに揺らいで、これまた微かに眉を顰めた。

「まさかの質問だねィ、俺にそんな趣味はありやせん」

あってほしいんですかィ、って真顔で言う隊長はやっぱりノン気なんだろう。そこは安心した。じゃあ、男子トイレに篭って3人で何してたの?あの副長までも巻き込んで…。エロ本の読み回し?そんな中学生みたいな事してたんですか?ああああ!!隊長の顔見たら何だか急に真相が気になってきた!どーしよう、聞いてもいいかな、聞きたいな気になる気になる。言おうか言うまいか迷っていると怪訝そうな顔で目を細めてジッとこちらを見ている隊長の視線が痛い痛い。

「百面相」

言って、眉間にデコピンを一発喰らった。触れられた眉間が熱いのは痛みのせいかそれとも別のものなのか、ほんの少し速くなった脈に後者だなって思った。いや結構地味に痛いから前者かな。寧ろ五分だ。痛いしドキドキするし何か嬉しい自分がいるし。私ってMだったの?なんか私変態くさくね?

「山崎君から、隊長と副長と隈無さんの3人で厠に篭ってコソコソ何かやってたって聞いたんですよ。隊長の顔見たら何か気になっちゃって」
「気になるんですかィ」
「好奇心旺盛なお年頃なので」

にこりと笑って答えたら「…ふーん」ってよくわからない言葉が返ってきた。隊長から聞いてきたくせに、興味なさそうだな。期待外れだったのかしら。

「ちょいと付いてきなせェ」

ぐいっと腕を掴まれ沖田隊長の力に引っ張られる形に立たされる。いきなりの事だったから私の体に力は入ってなくて、すんなりと腰を上げてしまった。それでもやっぱ力凄いなぁ、軽い自信ないもん。もう少し痩せる事も目標に加えておこう。ていうか付いて来いって、連行する気満々じゃないか。拒否権ないんですね。もう慣れたけど。二の腕から手首に隊長の手が移動してそのまま引っ張られる。いつもより速い歩行速度に足が縺れそうになる。隊長の足だけは踏まないように注意しないと…。

「何処行くんですか?」
「厠」
「かわ…えぇぇ!厠ってまさか男子便所?!」
「今更、男も女もねーだろ」
「私は女ですよー!」
「ンな事ぁ解ってんだよ」

そうこうしている内に目の前には厠の文字。隊長が厠の扉に手を掛ける。妙にソワソワしながらチラリと視線をずらすと、ベニヤ板に股間を近付ける近藤局長を見てしまった。あっちも吃驚してるよ!うわあ、何か何か、複雑だよ色々と!
あれ、ていうか何で便器の上にベニヤ板?所々開いている穴はまさかナニを入れる穴では…。一体何があったんだろう…?
……居ずらい、いた堪れない。恥ずかしくなってきた。視線を目の前を歩く隊長の靴に集中させる。ヒィィィィィィィ…!!!今すぐ出たい!!!個室に入ると掴まれていた手をやっと開放してくれた。ちょっと痛いなーと手首を擦ると同時に隊長が鍵を閉めた音が聞こえて、心臓が何故か急に速くなった。うううわぁぁぁ…初めて入ったけど、結構スペースあるんだ。一瞬だけ男子トイレだということを忘れたけど、思い出すと再び顔に熱が集まる。いや、蒼くなってるかも。いろんな意味で。気を紛らわせようと頑張るけどどれも意味なかった。ていうか沖田隊長と、ってところで既に他の事なんて考える隙なんて見つけられないよ。もういいです隊長。知らなくていいので、教えてくれなくていいから出して!何これイジメ?男子トイレで私何してんだろ。うあああ、痴女みたいだよ。変態だよぉ。誰か入ってきたらどうしよう、あ。もう、すぐ近くに局長いるんだった。何か涙ぐんでたな。どうしたんだろう。あーあーあー、沖田隊長と二人きりなんて気を紛らわせる事出来る訳ないじゃないか。しかも厠の個室。あろう事か男子便所!どんなシチュエーション?上司に男子便所に連行されるなんて。


「あの、隊長…?」

長い沈黙に耐えられなくて声をかけてみるも、相手は堂々の無視。かなしー…。

「そこ座りな」って便器の蓋を下ろして促す隊長に素直に頷いて、汗を掻いてる手を握る。目の前に隊長が立ってる。い、位置的に、目の前に隊長の股間付近が…。目の前に、目の前に……うわ、何かさらに恥ずかしくなってきた!!
ばっと顔を逸らすと隊長がしゃがんで「何考えてんでィ」ってペチペチと軽く手の甲で頬を叩く。た…楽しんでやがるんですかこのサド上司!!無駄に笑顔です隊長!!!

「何かこう二人きりで狭い密室ってムラムラしてくんな」
「いやそんなストレートに言わないで下さい」
「あれ、緊張してる?」
「あ、当たり前じゃないですか!」
「あららぁー、なーにを期待してんのかなあ?」
「もう変ないい方しないで下さいよー!」

へーへー、なんて適当にあしらいながら肩に手を置いて顔を近付けてくる。ちちちち近い近い近いよ!!何何何をなさる気?!
なーんて嘘です。何をされるかなんて解ってる。そこまで子供でも、そこまで鈍感でもないのだ私は。でももしこれで私が考えてる事が隊長とちがかったりしたらとんだ笑い話だ。

「なんか理性持ちそうにねーや」

肩に置かれた手を払いのける術も、否定する理由も見つからない私はただゆっくり目を閉じて、来る温もりを待つ事しかできない。もうこれはキスしかないでしょう?


同意も無い了解
突如触れたそれは強く甘く唇を吸った。


「こんなこと3人でやってたの?!」
「ちげーよ!男同士でキスなんてするわけねーや」
「ハハハッキリ言わないで下さいよ!じゃあ何やってたんですか」
「放尿講座。てか便所革命を…」
「十分怪しいと思いますけど…」
「…好きでさァ」
「ごまかさないで下さい」
「…ゆでだこみてぇ」