てにす | ナノ
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まじでか。でもそんな気配とかなかったのに、さっきまであんなに晴れてたのに…。お天気お姉さんもヨシズミも大丈夫って



「晴天だって言ってたのに…」



ついさっきまで晴れていた空は今は雲に覆い尽くされ灰色一色が広がっている。ポツポツと小降りだった雨は、玄関にたどり着く頃には本降りに変わっていた。こんな時に限って折りたたみ傘を持っていない。勿論傘も持ってきてない。置き傘は先日雨が降ったときに持ち帰ってしまって今は無い。


「…ついてない」


呟いて、目の前の水溜りから視線を持ち上げ空を仰ぐ。この前ケーブルテレビを弟と見ていたときに放送していた、ラッキーマンというアニメがフラッシュバックする。
もし私が今ラッキーマンに変身できたならこの雨はたちまち止んでしまうだろうに…妄想に耽るってみても虚しいだけで、雨は強くなるばかり…。自然と溜息が漏れる。横目で側を見るとあるのは傘立て。持ち主に置いて行かれた傘達が寂しく並んでいる。


「………」


…明日、持って来ればいいよね…?いやいや人様の物を無断で持ち出すなんてやっぱり駄目か。でも濡れたくないし。今日だけ借りていこう。誰のか分からないけど借りるだけなら…。それに、幼稚園で習わなかったのかな。自分の物には名前を書いておくものなんだよ。そうだ名前書いてなかったらどうせバレないでしょう。名前の書いてない傘を一瞬にして見分けあたかもそれが私のであるように振舞えばいいんだ。そうだ、これも悪いのは、お天気お姉さんにグルのヨシズミに所有物に名前を書かない輩のせいよ。


「………」


梅雨は嫌いだ。雨ばっかだし。洗濯物干せないし、私の考えが腐っていく気がしてならない。髪の毛もうまくまとまってくれないし…。そういえば銀八の機嫌が悪かったな。いつもより髪がうねってたし、あれは少し笑えた。


「………」


そうだ。そんな事より傘だ。よーし、あのビニール傘とか安全そうだ。




「…借りるだけ…」



よし、周りに人影は無い。今がチャンス。これならドラマの再放送に間に合うぞ。もう一度辺りを確認して…よし。



ドッ




「ひゃわぁぁぁ!!」



突如何かが右肩を突付く。やっぱり人様の物を無断で持ち出すのはよくないよね!うん!ごめんなさい!冷や汗が気持ち悪い。地味に痛いぞ。ゆっくり振り返えると、プッと噴出す沖田がいた。右手には折りたたみ傘。ボタン押すと伸びるタイプの。私の右肩を襲ったのはそれかコノヤロウ。



「ンなとこで道塞いでんじゃねーや。俺の傘が当たっちまったじゃねーか。コレ傘の方がヤバイんじゃね折れてね?」

「どーゆー意味だコラ。つーか絶対わざとでしょ!」

「うん。わぁ、良く判ったね!」



テメェェェェェェェェ!!!



にっこりと笑う沖田。性格もその顔同様に可愛かったらいいのに。ホンットいい性格してるわ。バカにしたようにわざとらしく驚いてんじゃねェェェ!!激しくムカつくゥゥゥゥゥ!!とまでは言葉にはせず、渋い顔をするのに留めておいた。コイツに口で勝つのは無理だ、私の経験上。勝てるとしたら英語と美術の成績くらい。


「お詫びに家まで送ってくれないかなー…」


目には目を笑顔には笑顔を!沖田以上に可愛いつもりで笑ってやった。お詫びに、のところは皮肉たっぷりに。


「いいけど…お前外な」


笑顔急変。すっぱり言い放つ一言は私の笑顔をも崩した。サディステック星の王子の異名を持つこの男は、実は魔王の手先とかそんなんなのかと問いたい。ものすごく。どちらにしろサドには変わりないけど。




「いや寧ろ沖田が外でしょ!どんな詫び方だ!!」
「別に俺が濡れるわけじゃねーし」
「悪魔!」
「…ま、まー、マングース」
「す…すあま!ってしりとりしてんじゃねんだよ!つい答えちゃったよ!」
「ったく、女ってのは我侭で敵わねーや」



って、軽くカチンと来る事を溜息混じりに吐き出して、伸ばしていた傘を畳んでそのまま私に向かい投げてくる。宙を舞うそれを慌ててキャッチする。わ、何コイツ律儀に傘に名前書いてあるんだけど。その隣に書いてあるサド丸9号って何だ?傘の名前?!



「沖田、コレ…」
「しゃーねーから使わせてやらァ」




ラッキーガール




「で、俺はこっちの傘を…」
「盗むんスか風紀委員!」
「ちょっと拝借するだけでィ」
「あれ、つーかこの傘、骨折れてんじゃん!」
「きっとお前にぶつかった時折れたんでィ。お前胸以外かってーから」
「胸以外ってなんだァァァァァァァ!!テメッ覚えてろこんちくしょー!」

「あ。相合傘しとく?」
「うぇぇ、マジで!?」



(沖田に折り畳み傘を持たせたかったんです)