てにす | ナノ
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丸井君が好きだった。クラスの人気者で、男女どちらからも好かれてる彼が好きで。皆の中心にいる彼に憧れていた。目が合っただけで幸せだった。ドキドキした。喋った事は数回しかなくて、しかも義務的なものしかした事がないけれど、丸井君の声が私に向けられてると思うと嬉しかった。心臓が痛かった。その目が、声が私に向いている。それだけでどうしようもなくなった。壊れちゃいそうだった。それくらい丸井君に恋してた。休み時間とか、授業で当てられたときとか丸井君の声を頭の中に焼き付けようと必死に耳を傾けていた。丸井君の声が好きだった。目が合ったとき、挨拶してくれるそんな小さな優しさが好きだった。首をちょっと下げる程度の挨拶だけど、それだけでも嬉しかった。会釈程度だったけど、私に気付いてくれたって事が嬉しい。丸井君の優しさが好きだった。勉強はそこそこ、運動神経はさすが我が立海のテニス部レギュラーなだけあっていい方だし。人気者だし。器用で輝いてる丸井君が好き。目立つ、赤い髪。香る甘い匂いとか大好き。丸井君だなあってホッとする。
テニスしてるときの丸井君は本当にかっこよくて。放課後 適当に理由を作っては教室から見える赤を追っていた。時折、目が合う。はにかんだように見えた。私に。気のせいかもしれないけど、今だけはその笑顔、私だけのものだと思いたかった。嬉しかった。好き、好き。丸井君が好き。


朝寝坊して、(かなり急いだんだけど間に合わなくて)いつも乗る電車を一本見送って、10分後に来る電車を待った。ふと売店の方に目をやると丸井君が居た。うわあすごい。偶然。嬉しい。ラッキー。幸せだよ。だけど、挨拶なんて出来るはずもなく見詰める事に徹した。進歩ないなあ。話したい、話してみたいって気持ちも強かったんだけど、丸井君に何だコイツとか思われたくなくて、怖くて、無理だった。もしかしたら私なんて居るか居ないかの存在かもしれないし。話題も浮かんでこないし。どんな話するんだろう。いつも何の話してるのかな。あー、積極的な子になりたいよう。今後の課題にしようかな。

あ、おにぎり買ってる。ワカメだった。それからウイダーも手に取っていた。好きなのかな?私も今度買ってみようかな。わ、なんか思考がストーカーっぽいよ。でも、得した気分だ。丸井君が、売店のおばちゃんに小銭を渡す。大きな欠伸をしながらお釣りを貰った丸井君が不意に私の方を向く。あ、気付いたのかも。今、目があってる(勘違いだったらどうしよう)…どうしよう。そらせない。恥ずかしいんだけどそらしちゃうのもったいないよ。今、丸井君の目には私がいるんだ。目がそらせない。ていうか体動きそうにない。心臓だけ動いてるって感じだよ。なにこの感じ。
丸井君の後ろからもじゃっとした髪の男の子が現れた。確かテニス部の後輩君だったと思う。テニスバック持ってるし。もじゃ髪の子が丸井君に挨拶したところでやっと丸井君の目が私から離れた。やっと、と感じるくらいに長かった。実際は3秒くらいだったのに、本当に長く見詰め合っていたような感覚。時間が止まっているんじゃないかと思うほどに、時を忘れるくらいに、長くて。ほんの数秒。数秒だ。好きって恐ろしい。3秒が長かった。授業終了の時刻1分前に似た感じかな。あれは1分が異常に長く感じる。なんかそんな感じ。目が合って、3秒でこれだよ。授業1分うんぬんじゃないですよ。なんだか、学校以外という事だからなのかいつも以上に心臓がうるさくなった。そうだ、人が多いんだ。なのに、私と丸井君を妨げるものなんて、なかったんだ。変な感じだ。糸電話のピンと張った糸のように、真っ直ぐに目線が絡んでた。自分で言ってて恥ずかしいな。シチュエーションってやっぱ大事なのかしら。丸井君の視線が離れても暫く私は目が離せなかった。嗚呼、今日はなんだかいい日になりそうだ。
丸井君がおにぎりを口に含む。未だに私は目を逸らせていない。1秒でも長く見ていたい。焼き付けていたい。気持ち悪いな私。でもだって丸井君をもっと知りたいし。後輩君が、横から からかうように丸井君に何か言っていた。突如咳き込む丸井君。あ、後輩君怒られてる。ちょっと気になる。怒られてるわりに後輩君嬉しそうな顔してるよ。楽しそうだなあ。それから、疲れた顔をしながら前を向く丸井君と、クスリと笑ってしまった私の視線がまた絡まった。本日2度目。丸井君がちょっとびっくりしたように目を見開いた。そしてちょっと照れたようにおにぎりを食べながら目をそらしたのが見えた。また後輩君がからかうように何か言ったようだけど、今度は空いている手でポカリと軽く彼の頭を叩いただけだった。それを私はさっきと同じように眺めていた。いい加減見すぎと思った時に、今度は後輩君と目が合った。ヒラヒラ〜と手を振ってくる。人懐っこい性格らしい。???ビックリしながら、頭を軽く下げる。顔を上げたとき見えたのは、丸井君がグーで後輩君の頭を後ろから殴っていたところだった。丁度そこで電車が私の足元の前で停車した。降りる人は少なかったけど、そこまで混んでいなくて。今度からこっちのにしようかな。すんなりと中に入って、ドアの隣をキープ。同じ車両に丸井君発見。いつの間にこっちまで来たんだろう?小さく笑みを漏らした。口元に力が入らないよ、丸井君がこっちまで歩いてくる。


「…え…?」


私の方に向かってきてる?え、え?ええー!どうしよ、どうして、え?なになになに?!名前を呼ばれる。カッチィーン!全身金縛りのように動かなくなった。お目当て私ぃー!?わーわーわー!私の名前!ていうか名前覚えててくれたんだぁ…!


「おはよ」
「お、おは、おはようございます!(どもっちゃったよ!)」
「え、何で敬語?」
「や、なんか、びっくりして」

私、今 丸井君と喋っちゃってるよ!もしかして私、今日一日分の運使いはたそうとしてる系?全て注がれてる感じですか?!

「あんさ、数学の宿題やった?」
「う、うん、やった!」
「マジ?ちょっと貸してくんねー?やってなくてよ」
「どうぞ!」

ごそごそと鞄の中を探って、数学のノートを引っつかむ。震えてしまいそうな手をどうにか踏ん張らせて丸井君に渡す。

「サンキュー」

ま、ま…丸井君が!私に!笑った…!!!感動で声が出せないまま、何度も盾に首を振った。挙動不審ですっごい怪しい。私流石にキモイぞ。

「キレーな字で書いてんなー」
「あ……ありがと…!」

ノート綺麗にとっといて良かったよー!!褒められちゃった!お世辞?社交辞令?何でもいいです。ああもう幸せ!丁寧に書いておいてよかった!私グッジョブ!心の中で親指を立てる(イメージしただけ)


丸井君、丸井君。私は君が好きです。大好き。


チラリと丸井君を盗み見る(ノートを鞄に詰めてるところ)あ、まただ。バチっと目が合う。丸井君の大きな目が更に大きく見開いた(そういえば後輩君どこに行ったんだろ?)電車が止まる。ちょっと揺らいだ。肩が、丸井君に当たってしまった。急いでごめんと謝ると彼はさして気にしてないようで「大丈夫かよ」と笑っただけだった。「転ぶなよー」なんて言いながら電車を降りる丸井君に私も続いた。私今丸井君の、憧れの丸井君の隣に並んでるよ。いいのかな私なんかがいいのかな。明日もこの時間のに乗ろうかな。あ、でも丸井君 普段朝練じゃん。ただ、丸井君の隣というポジションに幸せを噛み締めながら歩いてると(特に会話はなかった。丸井君は退屈してしまっただろうか)いつの間にか校門をくぐっていた。もう学校についてしまった。

「ノート、あとで返すな!」
「うん」


また目が合った。

話す口実には十分だった。最高のきっかけじゃないかな。嬉しかった。チャンスだよね、これは。仲良くなりたい。好きだよ。好き、丸井君が。好きに、なってもらいたい…。目が合う。まただ。合う。笑って、挨拶してくれる。一歩前進。私は丸井君が大好きです。



「俺はお前が好きなんだよ。 知ってた?」



目が合う回数が増えてって数日後に言われる台詞だ。なんとも自信に満ちた丸井君でした。彼らしい。シンプルで、すっごい好きってのが伝わってきた。きっかけはケンカだったりそうじゃなかったり…。ビッグサプライズ




もう、すぐそこまで。

今はまだ何も知らない。



わこてぃーん!わこちゃんへ!茶会で話してた交換夢の丸井君です。見事に丸井君出番ないです!見事に告白シーンなど省きました!ごめんなさい!だけど赤也出す事は忘れなかった。仁王も出したかった!丸井君視点とかもやってみたかったんだけど難しかったです。そしてヒロイン好き好き言いすぎですね。目が合う=お互いを意識してる、って事で!イメージはヒロインと丸井君の世界。こんなのでごめんなさい。実は告白するときの↑の台詞が言わせたくて出来た話だったりします。もっとちゃんと出してやれよって話ですよね。いやあなんとも難しかった。実に。だって台詞以外のネタがなくて、手の進むままに話もすすめちゃったみたいな感じだったんですもん!本当に申し訳ないお。これからも頑張ります。

/Better than nothing