てにす | ナノ
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冬休みの終わりが近づくにつれて、危機感というもが背中に迫っていくような気がした。実際それは気のせいなんかじゃなくて、確実に私を蝕んでいった。どうしたものか。私はそれの解決法を知っている。だけれど、それを実行するには勇気と行動力そして体力を大量に必要とするのだ。

「どうしよう…」弱気になりながら呟いた言葉はなんとも寂しげな声だった。本当に、どうしようである。やるべきかやらざるべきか…答えは初めから出ている。前者だった。やらなくては。義務感というものが私を駆り立てた。そんな登校日2日前。ここまでくればお分かりだろう…冬休みの宿題に追われているのだ。目の前には山積みされたテキストブックが私を待ち伏せていた。中は問題ばかりでそれ以外は真っ白といってもいいほどに何も書かれていなかった。なんてこった。学校側に抗議したい。量が多すぎる。これでは休みとはいえない。とかいいつつ私は今日までしばしの休みを満喫していたりする。受験生の身でありながら遊びほうけていたのだ。なんたって休みですから。私はもう少し危機感というものを直に感じなければいけないと思う。

ふいに下の階からお母さんの声がした。私を呼んでいる。こたえるのさえ億劫だった。
ただでさえ宿題という敵が待ち受けているというのに、母の手伝いなんかしてる場合じゃない。それでも何度も名前を呼ばれ、だんだんとイラつきが出てきて仕方なく「なぁーにぃー」と部屋から叫び返す形で答えた。ちょっと降りてきなさい、と叫び返されたわけだが。しぶしぶといった感じで下に降りる。でもそれを悟られないようになるべく平静を装った。べつに装うほどでもなかったのだけれど。なんとなく、だ。


「なにー?」
「あんた制服まだクリーニング出したままだったわよねぇ」
「あー、うん。そういえば」


学校ももうすぐ始まるし、今から取りにいけという母の要望という横暴に、めんどくさいと思いつつ頷いた。クリーニング屋といえば、ジローの家なので一緒に宿題やろうか(終わっている確率は少なそうだが、もし私より進んでいたら写させて貰おう)携帯と財布と宿題を鞄に詰めて外に出ると、思いのほか室外は凍りそうなくらい寒かった。部屋の中が暖かかったということもあり温度差を肌で感じてしまう。あー寒い!ブルッと一度身震いすると早足で近くのコンビニへと向かった。おかしでも手土産に持ってってやろうという私なりの優しさだ。

コンビニと外の温度差に体が一度震えた。適当に籠を引っつかんでは、ポテチやらジュース、おにぎり等、とても2人分とは思えない量の食料を詰め込んでいく。会計をすませ外に出ると、その先に岳人らしき人物がいた。とりあえず呼んでみる。あ、こっちむいた。私に気付くと、「よ」 と片手をあげて挨拶してくれた。ニコリと笑ってみせる。岳人が首に巻いていたマフラーが風に揺れる。小さい子の様で可愛かった。小走りでこちらに来ると「どっか行くの?」とコンビニ袋を覗き込みながら尋ねてきた。折角だからが岳人も誘ってあげようか。


「ジローの家で宿題やろうと思って。あと制服取りに行くの。」
「そういや、俺もジローん家に出してたなあ。母ちゃんが取りに行ってくれたけど」


思い出すようにそう言うと、「俺も付いてっていい?」と聞いてきた。願ってもない。


「岳人宿題終わったの?」
「なんとかね。侑士の奴がやれやれうるせーから」
「忍足君って世話焼きなんだね。」
「ある意味ウチの母ちゃんより母ちゃんっぽかったぜ!」


はは、と笑う岳人を前に私はただ感心しているだけだった。あの岳人が宿題を終わらせてるなんて…。雪でも降るんじゃないだろうか。いや実は降って欲しいと思ってるんだけど。みんなで雪合戦とかしてみたいなあと思うわけであります。岳人の意外性だけで雪が降ったらそれこそまさに奇跡だね。あれ、なんか私さっきといってる事違う。まあ気にしない事にしよう。それにしても宿題、岳人が終わらせたとか珍しい。すっごい尊敬しちゃうよ。忍足君のおかげらしいけど…ホントにあの人お母さんみたい。あの岳人を…!


「あ、じゃあさ、俺一旦家戻って宿題取って来るわ!ジローん家先行ってて!」


それだけ言うと岳人は来た道を走りながら戻っていった。どこかに用事があったんじゃないんだろうか…。とりあえず、気を取り直してジローの家へと向かう。2人じゃ多い食料達も岳人がいればきっと丁度いい量だろう。芥川クリーニングの戸をあけて入るとまたしても温度差から体が一瞬震えた。ジローママが 「あら、いらっしゃい」と笑顔で迎えてくれた。


「制服取りにきたんでしょう?」
「はい。あの、ジロー君いますか?」
「ああ、あの子なら、部屋で寝てると思うけど…」


部屋にいると思うから上がって、と言ってくれたジローママに感謝しつつ、芥川家の奥へと足を進めた。制服は帰る時渡してくれるそうだ。


「ジーロォー」


ノックすることもなく堂々とドアを開け、寝ているであろうジローに声を掛ける。予想通りベッドの上で気持ちよさそうに寝ていた。ガバっと、ジローから布団を奪い取れば、ジローが身を縮めて丸くなった。芋虫を思い出す。こんな感じだっただろうか。ナメクジやだんごむしにも似ているかもしれない。


「ジロー!起きんかーい!」
「寒いCー」
「ジロー、宿題終わったぁー?」


寒いと呟くジローに聞こえないふりをして、ミニテーブルの上に問題集を広げながら問うと、むにゃむにゃとした声で「まだぁ〜」と返って来た。


「じゃあ一緒にやろうよ」
「ん〜」


のそのそと後ろでジローが起き上がる気配がした。丁度テーブルの上にはジローの問題集も置いてあって、何処までやってあるか確認させてもらった。あれ、私より進んでる?


「ふぁ〜あ、さみーなこの部屋。…あれぇ、何でオメーここにいんの〜?」


寝ぼけたように頭をかきながら私の目の前に座るジローを一瞥してから


「ジローが心配で来てあげたのー。宿題終わってないんでしょ?」


冗談半分な事を言ってみた。半分は本気で心配してたんだよ。半分は勿論私のためだけれども。テーブルの脇に買ってきたお菓子達を広げた。ジローの目が輝く。その瞳には期間限定のポッキーが映っていた。新作でジローもまだ食べてないだろうと思って買ってきたのだ。私も興味があったし。外れだったらジローに全部あげてしまおうという魂胆だった。利己主義な一面を曝け出した気分だ。気分とかそんなんじゃないですね。


「えー、ありがとー。でもほんとは俺の答え写しにきたんでしょ」
「案の定ジローも宿題やってなかったけどね。」
「寒くてやる気でねーC」
「ジローは普段からやる気なさそうだけど…」
「そんなことないよー。めっちゃめちゃやる気十分だって!」
「それこそそんなことないよ〜だよね」
「だって勉強じゃ…」
「…そうだね…」


気を取り直して、じゃあ始めましょうか、という所でタイミングよく岳人が現れた。


「わぁー、邪魔者ー」
「はあ?!何だよ急に!」
「せっかく2人きりだと思ったのにー」
「え、二人がよかった? 声かけちゃってごーめん!」
「んーんー。気にしなくていいよー。」
「折角教えに来てやったのに!」
「向日ってそんなに勉強できたっけ?」
「え、何この感じ。軽くイジメ?」


2人のやりとりを耳に流しながら、岳人先生の宿題をパラパラ捲る。わー信じられない!ホントに終わってるよ!こりゃ楽だわー。思ってたより早く終わるかもしれない。感心したのも束の間…後ろでマリオカートを始めた岳人の頭を丸めた問題集で思い切り叩いてやった。


「ってえ! 何すんだよ!」
「これ答え間違いすぎ!」
「え、マジで?!」
「あははー、向日マヌケー」
「てかジローも間違い多いし、なにこれ読めない!」
「あぁ〜、寝ながら書いてたかもー」
「ってお前もかっ!ジローだって使えねーじゃんかよ!」
「君達人の事言えないよ。」

「お前が一番言えないって」


声を揃えて言う2人に肩身が狭くなった。なんだよなんだよ、この中で一番勉強できるのって私なんだからね!そう言えば2人は何故か溜息を吐いた、盛大に。何この感じ。さっきの岳人みたい。


「あ、ポテチあるじゃん!食ってE?」
「お!俺 じゃがりこな!」
「チーズとサラダどっちにする?」
「あー…チーズがいい!」
「そこの都こんぶ取ってー」

「………はあ」





先は長そうだ。




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◎英ちゃん
甘くない。日常なのかこれ。ぜんっぜん甘要素入ってないけれど一応(強調)ジロー夢です。ジロー視点でやってみようとも思ったのだけれど、私には無理でした。精進します。英ちゃんに送りつけちゃうZE(゜∀゜)こんなんでよろしかったら貰ってやってください!お持ち帰りも放置も英ちゃんしだいということで…!もっと別の傾向で死亡フラグ立たせたかったです…しゅーん。こう台詞で骨抜きとか…!(無理無理)


/とある日のとある空