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「ちょっとー、何か言いなさいよ」 「………」 「は?何黙っちゃってんの。ラケットのガット面で鼻擦るよ?すり減らしてやろーかアン?」 「…っ」 ラケットの先で相手の顎を持ち上げると、奴はビクッと身体を震わせゴクリと喉を鳴らした。ちなみに言っておくと、これは呼び出してリンチ、イジメなんかじゃありません。たとえ私が奴を呼び出し、イビリ倒していようとも。そこらの女同士のうんたらとかじゃないからマジで。 「それとも、ガットにその髪くくり付けてやろーか、ア゛ン!?」 「……!」 冷や汗が頬をつたうのが見えた。赤也は何も言わずに顔を青くさせながら小さくなって何か、私の機嫌を直す言葉を捜しているようだ。 「赤也くん…?今回の英語の点数は?」 「…34…点」 口ごもった後、言いにくそうにそう呟いた。特に点数は聞こえるか聞こえないかの微妙な音量。 「うん34ね。何のために私が付っきりで教えたと思ってるの?34点?赤点ですよ。赤点エースくん?」 「…す、すみません…ッス」 私の顔を伺う様に上目使いで謝る姿はまるで子犬。まぁ可愛いですよ。ちょっと目付き悪いけど。まだ許してやらないけど。 「34点。…この低い点のおかげで私がどんな目に遭ったか解かる?」 「…部長に怒られた…」 「そんな可愛いモンじゃなかったわね!!!」 ハンッ、鼻で笑い、ラケットを赤也の真横に振り落とす。地面に衝突した際にジンと振動が腕を伝った。ビリビリと電流が流れる右腕を目を細めて見る。後からブン太達の声がやけにうるさい。耳に響く…。 「何とか言いなさいよ」 「先輩怖いッス」 ピキッっと顔が強張った。何気ない一言が妙に勘に障る。 「っ…す、すみませんねぇ」 「…ごめんなさい」 首を項垂れて、押し黙る赤也にやり過ぎたと少し反省した。小さく長く息を吐き出して、私の前で正座している赤也と同じ目線になるようにしゃがむ。(反省してるみたいだし…) 「もういいよ。許してあげる」 そこまで言って はい、と私が今まで握ってた少々汗ばんだグリップを赤也に手渡す。それを受け取りながらと目を遠慮がちに私に向けるとおずおずと声を出す。 「あ、あの…」 搾り出してるような声が可愛くて先程まで張っていた頬の筋肉が緩んだ。 「もう怒ってないって。ほら、早く行かないと…」 「先輩、好きッス!!!」 「は」 は?今の赤也の発言を数回頭の中で繰り返してみる。好きッス。好きッス、って言った!え、え、え。ええええ!好きって、何?好きって何?!不意打ち過ぎる言葉に、告白と取ってもいいのかとちょっと迷う。いや実際ちょっと何処ろじゃないけど!てか…もしかして、反省してない? まぁ、怒る気なんて目の前の赤い子犬を見ちゃったら失せてしまうのだけれど。 赤也サイド 「ちょっとー、何か言いなさいよ」 いつもより声を落として、眉をひくつかせラケットを肩に担ぐ先輩は 「………」 はたから見たら柄の悪い、不良だ。 「は?何黙っちゃってんの。ラケットのガット面で鼻擦るよ?すり減らしてやろーかアン?」 「…っ」 俺の中の天使だった先輩は何処…。目の前の彼女は天使のカケラもなく、もはや悪魔と化していた。悪魔と化した原因が他でもない自分なだけに下手な事言えない。原因が丸井先輩とかだったら腹抱えて笑ってやったのに。今の先輩ならあの幸村部長相手でも互角に争えそうだ。うわ、2人が組んだら取り返しのつかない事になりそ。 「それとも、ガットにその髪くくり付けてやろーか、ア゛ン!?」 「……!」 冷や汗が頬をつたう。それと一緒にに罪悪感とも呼べるソレが波の如く押し寄せた。今現在も反省してるのか、してないのかの狭間で色々と考えていた事にも罪悪感が。だって先輩と部長が組んだら色んな意味で最強だと思う訳よ。後で丸井先輩と仁王先輩に同意求めてみっか。 ああもう生きてる心地を今すぐ感じたい。今すぐに。 「赤也くん…?今回の英語の点数は?」 先輩が悪魔化した理由を易々と言える訳もなく、多少なりと間を開けた後に小さく呟くように口にする。実際は先輩の殺気みたいなものに圧されて声が出なかった。 そうだ、先輩が怒っている理由の、期末の結果。 「…34…点」 マジすみませんでした。マジ反省してます。そう言えればいいのに。つーかさっき言ったし。笑顔で謝れば許されると思うな。とか言われたし。俺八方塞がりじゃん。先輩小悪魔通り越して悪魔じゃねーか。 「うん34ね。何のために私が付っきりで教えたと思ってるの?34点?赤点ですよ。赤点エースくん?」 そう。確かに。テストまでの2週間(正しくは1週間と3日)放課後付きっきりで教えてもらったとも、はい。でもさ、ほら…。…好きな先輩と2人で勉強なんて年頃の俺としては集中できないというか。もう色んなモン押さえんのに必死だったというか。勉強の中身なんてほとんど覚えてませんでした!というのが本音で。でもそんな事言おうものなら、容赦なく笑顔で首をラケットで折られそうなので言えるはずもなく…。 「…す、すみません…ッス」 どうにか先輩の殺気出す中で口に出来たのがコレ。しかも声小さい。うわ。情けねーよ俺。俺の恋事情くらいに情けねーよ。こんなんで先輩の事啼かせられんのかな、俺の下的な意味で…って俺不謹慎すぎる。顔に出てねーよな。 「34点。…この低い点のおかげで私がどんな目に遭ったか解かる?」 「…部長に怒られた…」 「そんな可愛いモンじゃなかったわね!!!」 俺のすぐ隣りにラケットが振り下ろされた。 「ひぃっ!!!」 あ、先輩の腕が微妙に振動してる(シビれてんだろうなぁ…) 「何とか言いなさいよ」 やせ我慢してるのか微妙に声が震えてる(やっぱ痛いんだ。) 「先輩怖いッス。」 本音言うと先輩可愛いッスとか言いたかった。爽やかに。俺バカみてぇ。そんなこと言ったら間違いなく反省してないのね、とか言われてアノ世逝きだぜ。ピキッと、一瞬にして先輩の顔がこわばった。 「っ…す、すみませんねぇ」 「…ごめんなさい」 感情を押さえるのに、はたまた押さえられないのか、声が震えている。ヤベ地雷踏んじまった。 「………」 もう怖くて息もできないッス。ギュッと目をつぶると、上から ふー、と長く息を吐く先輩。そして、はい、と俺のラケットを先輩から手渡される。少し汗ばんでて生温い。…なんか変態みてぇ。何か込み上げてくるんだけどナニコレ 「あ、あの」 その、汗ばんだグリップをギュッと強く握り 「もう怒ってないって。ほら、早く行かないと…」 早く、と促す先輩の腕をもう片方の空いた手で掴み、腹のそこから声を出す。言わなきゃって思った。なんか言いたかった。伝えたかった。好き、そんなんが溢れてきた。あーもう恥ずかしい! 「先輩、好きッス!!」 「は」 立ち上がると、顔を真っ赤にして口を開けてる天使が居た。グッと軽く腕を引っ張ると、いとも簡単に立ち上がる先輩を見て何か女と男ってこんな時ジワっと来るなーとか冷静に考えてんのに、紅くなる顔はどうしても冷静になってくれなかった。 変なタイミングで 怪訝そうな顔した先輩と目が合う。やっぱタイミングって大事かも、俺は学んだ。 (…反省してたの?)(勿論ッス!)(…そう)(先輩、好きだ!)(…そう) 久世様へ相互記念! 両者の視点を入れたのは初めてでした。 |