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今日の俺は機嫌が悪い。菊崎にはいつも通りだと言われたけど、これでもすこぶる機嫌が悪いのだ。菊崎、お前俺が怒ってたり機嫌悪かったり機嫌よかったりしても俺の表情の違いに気付けないというのか。まあ実際、機嫌わるかろーがよかろーが、無表情であることに変わりはないので菊崎が分からないのも仕方ない。だがしかし俺は最高潮に機嫌が悪い。自分では結構表情というかオーラというか、とりあえず自分にしては珍しくオープンに機嫌が悪いのだ。菊崎の発言にもちょっとムカっときたぞ。これは俺個人の押し付けであり八つ当たりなので彼女には何の非もないのだが。
とりあえず俺がどうして機嫌が悪いのかを簡潔に分かりやすく何の面白みも求めずにまとめてみようと思う。菊崎、お前そこに正座してよく訊け。そう静かに言ってやると、アイツは俺の機嫌が本当に悪いことに気が付いたのか慌てて目の前で正座した。

いいか、俺は別にこのクラスで誰がイジメられようが、誰が誰をイジメようがそんなことはどうでもいい。

寧ろ俺は喜ぶ。


性格が歪んでると言われそうだが事実なので否定は出来ない。いや、別に弱いものイジメが好きなわけじゃねーんだ。ただ、仲良しごっこが嫌いなだけ。本当はそこまで大事な奴でもないのに、本気で大事にしてますって偽ってるのがむかつくだけ。友達だって思ってんならもっとちゃんとソイツのこと理解出来るよう努力とかしろよって思う、結局あいつらは自分が可愛いだけなんだよな。一人がいやだから誰かに側にいてほしいから友達のふりを続けてるんだ。まあそこは前々から散々言ってきたことだから君も充分に理解してくれていることだろう。

「藤城くんって機嫌が悪いとテンション上がるんだね、可愛い」
「黙れ」
「すみません…続けてください」

で、だ。うちのクラスにも崩壊というものが訪れたわけ。つまりイジメ発生ね。一つのグループ内で始まったハブりからイジメはいつの間にか、っていうかあっという間っていうの? なんかつい昨日までは女子のグループの奴らだけから受けてたイジメが、今日の朝来てみたらクラス全員からのものに変わってたんだよな。

「男子たちまで加わっちゃってちょっと同情するかな…」
「うちのクラス馬鹿ばっかだからな、すぐ流されんだよ」

一致団結しやがってあいつら。……別にそのことに怒ってるわけじゃない。
俺はそこまで善人でもないし優しくもない。イジメはよくない、とは思うけど止めさせるために行動はきっとこの先も俺は起こしたりしない。止めさせようって気も毛頭無い。放置。触れぬが仏…あれ、なんか混ざってるな。まあとりあえずそんな感じ。
自分と、自分が認めた奴がいればそれでいい、俺ってそういうタイプの人間だから仕方ない。性分ってやつかな。性格悪いって言われそうだけど、そんなん俺が一番分かってるから他人に言われたってどうもしない。

「菊崎さ、」
「え、なに」
「お前、俺より感情豊かだろ?」
「?、ごめん、よくわかんない」
「今クラスで起こってること止めさせたいとか思ってるでしょ」
「止めてほしいけど、私は何もしないよ? 巻き込まれるの嫌だもん」

菊崎もそこまで優しい人間じゃない。俺よりは人並みに優しいけどね。たぶんコイツは自分と自分の大切だと思える奴以外は結構どうでもいいんだろうな。どうでもいいってわけじゃないけど、わざわざお節介を焼いてやる奴じゃない、少なくとも。まあとりあえず、俺よりは今の現状を何とかしたいと思ってるはずだ。俺としては退屈はしてないけど、迷惑はしてるってとこかな。イジメなりなんなりするなとは言わない。しろとも言わないけどさ。せめてもう少し静かにやってほしいもんだね。あいつらオープン過ぎるだろ。そういうのってイメージダウンに繋がるってわかんねーのかな。イメージも何もない俺が言えたことじゃないけど(常に無表情だからきっとイメージ最悪なんだろうな。どうでもいいけど)

「で、藤城くんはどうして怒ってんの? いい加減教えてくださいよ」
「うん、」

一丸になってクラスの女子一人を苛めてるのがね、すっげーうるさいんだよ。俺折角音楽聴いてんのにさ、あいつらのせいでほとんど聴こえねーの。音量上げてもだぜ? 俺の鼓膜に傷が付いたらどうしてくれるんだろうな。一人残らず病院送りに出来る自信あるよ。そのおかげで電池も残り少ないし…。ぶっちゃけ目障りなんだけど。ふざけ過ぎだよね、俺電車通学でこのまま電池が家まで持つかすごい心配なんだけど。あいつらマジいい加減にしろし。教室はお前らみたいな奴らのためだけにあるんじゃねえっつの。少し他人を考慮すりゃわかんだろ。まあわかんないからうちのクラスには“ごっこ”でつるんでる奴ばっかなんだろうけど。誰も彼も自分のことばっかだ。ほんとは他人なんかどうでもいいくせにな。とにかく電池がもう赤いんですけど。死にそうなんだけど。

「…え、?」
「え、って何」
「そ、それだけ…?」
「死活問題だ」
「そんな、大げさな…」
「死活問題だっつってんだろ」
「い、あの、いつものクールキャラはどこに置いてきたんですか」
「これ充電できればすぐにでもクールキャラやってやるよ」
「いや、ありのままの藤城くんでいてください。てか機嫌悪い時の藤城くんって楽しいね」
「あ?」
「すみません、続けてください」
「ここまで言っておいてなんだけど」
「うん」
「一人の女に対して男女28人で責めるってどう思う?」
「私、は…酷いなって思うけど」
「俺もね、良心がないわけじゃないから、さすがに見てて気分悪いんだ」
「あの子のこと助けたいって思う?」
「そうは思わない」
「きっぱりだね…」
「だけど、俺が迷惑してるんだから止めてもらいたいね」
「藤城くんって自己中」
「何言ってんだよ、菊崎のことはちゃんと考えてるよ」
「例えば?」
「この前ジャージかしてやったじゃん、俺他人のために教室までわざわざ物取りに行ったりしねー」
「あ、! ジャージ、明日返すね。洗濯したんだけど持ってくるの忘れちゃった…」
「うん。おかげで俺今日体育見学なんですけど」
「ごめんね!」
「いや、別にいいけど」

体育かあ、菊崎が呟く


「体育も男女混合だったらいいのにね」
「……なんで」
「藤城くんいるじゃん。体育ってさ、2組に分かれて何かしたりするからめんどう…」
「マジたりーよな」
「藤城くんはどうしてるの? 誰かと組んだりする?」
「いや、俺その辺ぶらついてる。あのパンチ生徒のことよく見てねえからバレたことねーんだ」

パンチというのは、パンチパーマの体育教師のことだ。名前は忘れてしまったが、あいつの髪型だけはいつでも鮮明に思い出せる。パンチパーマつーか、あれはただの縮れ毛だと思う。タバコに火つけようとしたら髪の毛燃やしちゃいました〜みたいな髪型。パンチパーマに加えて本人がチンパンジーに似ていることからパンチと生徒の間では呼ばれている。本人にはパンチのきいたイカした教師!というフレーズで誤魔化してるらしい。
本当の意味を知らないパンチが 「パンチ先生!」 と呼ばれても、ニカッと並びの悪い歯を見せながら笑ってしまうのも仕方のないことだ。当の本人は当然、パンチのきいたイカした先生、と呼ばれていると思い込んでいるのだから。
俺からしたら…パンチのきいたイカれた先生、にしか思えねーけどな。

「えー、パンチ結構よく見てるよ!」
「女子は、だろ。お前アイツには気を付けろよ。女子見てる時のアイツの視線マジでヤバイから」
「パンチのことよく見てるんだね。大丈夫私影薄いから」
「見てるっつーか、みんな知ってると思うよ。アイツ男子んトコ居ても女子の方見てるし」

まあ俺からしたらサボりやすくていいけど、そう付け加えると菊崎が不満そうな声で抗議してきた。いやいや、俺のせいじゃねーからな。パンチに言ってやれ。

「あ、もうすぐお昼終わる…」
「次体育でしょ?早く行けば」
「藤城くんは」
「誰かさんのせいで見学だからここでサボってる」
「ご、ごめんね!…ずっとここ?」
「おー」

半ば生返事。普段あんまゲームとかしないんだけど(暇つぶしに一応常備してる)、今から約1時間退屈なので仕方なくポケットに入れてきたDSに電源を入れる。

「じゃあ、終わったらすぐ迎えくるよ」
「ここまで?」
「うん、」
「いやHRあるし、始まる前に教室戻る」
「そっか、じゃ、今日一緒に帰りませんか」
「は?」
「藤城くんとんこつラーメン好きなんだよね、ご馳走する!」
「マジで?」
「うん、藤城くんの口に合うといいんだけど」

それじゃ、めんどいけど行ってくる と言う菊崎に「じゃあ俺は塩ラーメンおごってやろうかな」と切り出しといた。したら、それじゃお礼にならないと笑う。あ、お礼なんですか。俺はてっきりお詫びの方だと。まあいいか。

「楽しみにしてる」

自然と口元が上がる。いつのまにか上機嫌になっていた。つーか鈴木の話からだいぶそれたな。



億劫


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