あれ、と藤城くんが指した先には鈴木さん(仮)の姿があった。教室に戻ってこないと思ったらこんな所にいたのか。鈴木さん(仮)が居た場所は、プールの外の影になっているところ。ちなみに私たちが見おろすような形になっている。相手はこちらに気付いてるのか知らないけれど、その場に座ったまま動かなかった。 「帰ってこないと思ったら…ずっとここにいたのかな」 「さあ。しかし驚いたな」 さほど驚いているように見えなかったけれど、そこはいつもと同じだろうから気にしないで、何に驚いてるのか訊いてみる。確かに驚くことも色々あるとは思うけれど、その色々が何なのかまではわからない。藤城くんはやっぱり人と違う考えを持ってるんだと思う。私は、彼女がずっと一人でここに居たことに驚いたけどね(ずっと居たかはわからないけど) 「あの人、泣いてる」 「え、?」 「本気で、今朝っていうか昨日されたことにショック受けてるんだね」 「そりゃ、ショックじゃない…かな?」 「本気で、ショック受けてることに俺は驚いてんの」 「…、……?」 「だってさ、あの子だって自分のグループのやつらの陰口言ってたんだぜ? で、自分は言われてないなんて確証もないのに安心しきってた。警戒心、疑心を感じることもなく今まで暮らしてたってのにも驚いたけどね。で、今更危機感抱いてんのも遅いし、本気で悲しんでるのにも驚いた。すげー、俺驚きすぎじゃん」 珍しく一気に喋る藤城くんに私は驚きながら、確かになあと藤城くんの言い分に納得した。 彼の言うことも正しい 「なにより、自分がターゲットにされるなんて思ってなかったんだろうね」 彼はまたもや珍しく口元を歪ませて意地の悪そうな顔を作った。彼はこうみえて結構なサディストであることが伺える。藤城くんは、カシャンと音を鳴らしてフェンスに寄りかかった。さっきから思ってるんだけどいい加減鈴木さん(仮)気付かないかな。結構近くにいると思うんだけど、未だに私たちの存在に気付いてないのだろうか。 「これだから女って大変だね」 「え、あー…そう、かも」 「あのグループって目立ってたし、人数多いじゃん」 「そうだね」 「もう一人くらいターゲットになりそう」 「え、」 「俺らのクラス、グループがもっと増えるか、一丸になるかどっちかだな」 「それって、」 「あいつ…名前知らないけど、今のターゲット…A子でいいか」 「鈴木さん(仮)だよ」 「一々かっこ仮かっことじとか言うのたりーな。鈴木でいいよ」 「じゃあ鈴木さんで」 「ん。で、後者は、鈴木さんをクラス中でターゲットにするか。前者は、鈴木さんが前にいたグループからまたターゲットが増えて、鈴木A、鈴木Bが増えて、鈴木で合体してグループを増やしてくか」 「鈴木が合体ってなんか気持ち悪いね」 「まー、他のグループからも犠牲者が出るかもしんないけどね」 「ん? なに」 「どっちでもいいかな」 「そっか」 「私、今たいくつしてないし」 「あー、それ俺もだわ」 「え、えええ! な、なんで?!」 「え、なんでって…たいくつしてなきゃいけないのかよ」 「いや、そうじゃないけど、どうしてたいくつしてないのか気になって?」 「疑問系だし。…だって話相手も出来たし」 「話相手って、わたし?」 「うん。俺ね、お前がとってた行動すげー頭いいと思ってる」 「え、」 「賢い選択だったんじゃない? つーか俺らシンクロ率高いよな」 「うん、え、あ! あんね、私もね! 藤城くんいるからたいくつしてないよ」 「うん分かる」 「え!」 「この前よかすっげー明るくなってんもん。俺なんかいいことした気分になるからそうゆー嬉しそうな顔すんのやめてね、照れる」 「でもそんなこと言って藤城くんいつも無表情だから照れてるとかわかんないよ」 「無表情ってお前はっきり言うな失礼なやつだな。楽なんだよ、顔動かさなくていいし」 「笑うとかっこいいよ?」 「ほんとにかっこよかったら無表情でもかっこいいもんなの」 「へー」 無表情でもかっこいいってことは言わないでおこう。ていうか藤城くんって照れるんだ! そんでもって鈴木さんはそろそろ私たちに気付いたらどうなんだろう。目の前でしくしく泣かれてるのもあんま気分いいもんじゃないな。見てるこっちもこっちだけど。あれ、悪いのって私らじゃない? 邪魔だよね。 ← 7 → |