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ぱちり、蒸し暑さに目を覚ます。頭がはっきりしないのは寝起きだからなのか。しばらくぼーっとしていたけれどベッドから動きたいと思えなかったのでとりあえずエアコンのスイッチを入れて再び目を閉じた。
かなりの時間を睡眠に費やしたせいで再度夢の中に入るには時間がかかりそうだ。なんてことを思って10分、コンコンとドアのノックの音。声を出すことさえ億劫だ。どうぞー、自分では口に出したつもりだけど実際に声を出したかは解らなかった。どんだけ頭働いてないんだよ、と思っているとガチャリ部屋のドアが開く。

「あ、なんだ起きてたじゃん」


今度はしっかり自分が声を発した事を確認した。「え」短く吐き出された驚きの声はこの部屋のどこまで響いただろう。目の前にはおぼんを持った藤城君がいるのだ、驚かないわけがない。

「菊崎のお母さんからお粥の差し入れでーす」

でーす、語尾を伸ばしながら私の上におぼんを乗せる彼の表情はやはり無表情だ。

「夏休み一日増やしてんじゃねーよ」
「増やしたくて増やしたわけじゃないです」

今日は、別に待ってなかったのに訪れてしまった登校日であったが、何の奇跡か呪いか熱を出した私は新学期早々に学校を休んだのだ。まあ登校日初日だし校長の話と王子の話と先生の話を聞くだけだろうから学校は午前中に終わるだろうし、ぶっちゃけ休んでも何もないと思う。ていうか病気だから休むもくそもないんじゃないだろうか。いやそんなことよりも藤城氏は何故こんなところに…まさかまさか、お見舞い?

「藤城君何しに来たんです?」

そう聞けば彼は珍しく目を見開いた。え、何でそんな驚くの。

「お見舞い以外にこの状況何かありますか」

今度は私が目を見開いた。藤城君がお見舞い…キャラじゃなくないです?

「ひでーな」

そう口にした藤城君は私のお粥を蓮華で掬って私の口へつっこんだ。はい、あーん(ハート)なんて可愛らしいものじゃない。食らえ俺の…!みたいな流れを思い出す必殺技のようなはい、あーんだった。いや、あーんとかされてないけど。無理やりつっこまれただけだけど!そんなに熱くなくてよかったぁぁぁ…ま、じ、で!
むぐ、目に涙が浮かんだ。ひ、ひどいいいいいいいい!

「わた、わつぁし、病人!」
「俺を薄情者扱いした奴に病人も何もありません」
「お見舞いに来たならもっと優しくしてください」
「………それもそうだな」

今度はふーふーと蓮華で掬ったお粥を冷ましてから、はい口開けてと口元まで持ってこられる。藤城君は無表情なんだけど、まさかこんなイケメン(死語)にあーんをされる時が私に訪れていいのだろうか。無表情だけど。重要ポイントなのでもう一度言うけど無表情だけど。

「顔赤くしちゃって、菊崎さん何照れちゃってるんですか」
「(優しいというより意地悪のような…)」
「ほら俺が優しい間に口開けてね」
「(優しい間…?)」

とりあえず一口頂いて、それからは自分で食べると藤城君から蓮華を奪い取る。お粥を食べてる間、藤城君は今日の出来事を話しながら持参したDSで遊んでいた。

「長い休み期間って恐いよなぁ…休み中に遊んでた奴は学校始まっても仲良くやってるけど、遊ばなかった奴は仲間はずれらしいぜ」
「ふぅーん」
「名前忘れたけど、クラスの奴が留学してたっぽくてさ留学中あいつ、鈴木さん?の相手できなかったってだけで今じゃターゲットにされてるみたい」
「藤城君、ターゲットが鈴木であとは田中さんだよ」
「もうなんだっていいよ、何でそんな古い設定覚えてるんだよ(読者もびっくりだよ)」
「…………そうだね。でもさあ今日新学期じゃなかったけ?」
「新学期早々にそいつ囲んでたよ、ほーんと懲りないよねー。あ、死んだ」
「クラスの女子もうほとんどターゲットにされたんじゃない?」
「あー、ローテーションはやいもんねー」

藤城君は顔をあげると私が食べ終わったのを確認して、DSをパタンと閉じた。
そして思い出したように、「あ、でも」と切り出す。

「何かあったの?」
「まぁねー、菊崎はどう思うか解んないけど俺はちょっと楽しくなるかもなんて」

ずっと無表情だった藤城君がこの時初めて口元を歪めた。笑うとほんと天使だよなあとしみじみ思う。発言は悪魔だけど。

「ま、俺からの差し入れでも食べながら聞いてよ」

そう言って差し出されたのは白桃ゼリーだった。差し入れまで持ってきてくれるなんて、悪魔なんて言ってごめんね藤城君は全部天使だよ。

「田中の取り巻き連中は置いといてさ、数人の女子はちょっと離れたとこに居たんだよね。たまたまかな」
「藤城君なんか噂好きのおばさんみたいに目ざとい……」
「うるさい」
「女子グループってさ、イジメの集団しかいなかったけどさぁ何グループかに分かれ始めてるのかもね」

葡萄のゼリーの蓋をぺりぺりはがしながら藤城君はそれはそれは綺麗な顔で笑う。ゼリーの蓋はがしながらニヤつく人とか…怪しいよ、藤城君
笑みを崩さず静かに一言呟いた藤城君の背後に、私は確かにサタンの存在を見たのだった。

「そろそろやばいかもね、あの人」


背筋がぞくりとしたのは風邪のせいか、何かを予感してなのか。



開閉


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