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彼からの連絡があったのは、夏休みに入って5日目の生活リズムが崩れ出した頃だった。
おやつの時間あたりに受信されたメールには、毎度のことながら簡潔に用件が書かれていた。“出て来れたらおいで”と。
その下には住所らしきものも書かれている。これってもしかして、藤城君の家の住所なんじゃ…。

ジャージを急いで脱いで外出用の服に着替える。適当にまとめていた髪のちゃんと整えて20分もすればいつでも外出おっけーな私が鏡の前に立っていた。

意気込みながら玄関を開ける。ドアの前には私服の王子が笑顔で立っていた。

「どーもこんにちは」
「…えっ…王子…?」
「夏休みは満喫してるかい?」
「な、何で私の家知ってるの」
「俺調べ物って得意なんだよね、生徒会長権限ってやつで」
「う、うわ…!」
「蓮のトコ行くんでしょ?」
「え、うん…何でそんなことまで知って…!」
「蓮から直接聞いて、迎え来たんだよ」

別にストーカーしてるわけじゃないよ、と笑う王子に口角が引きつった。

充分ストーカーっぽいよ、王子


少し先に、黒く光っている車が見えた。まさか、と思いながらその車のそばを通れば運転手らしき人が私たちの前でドアを開けた。
王子は当然というように、「どーぞ」と笑顔で中に入るよう促す。なんで前の座席と後部座席の間にこんだけスペースあんの?! どうしてこんな広いの!?
そういえば、王子って金持ちだったよ!見た目だけの男じゃなかったよ!
ドキドキしつつ中に入ってすみにちょこんと座る。うわ、この椅子かなりふかふかだよ、タクシーの座席の比じゃないよ…!

「王子って、すごいね」
「別に俺がすごいわけじゃない」
「いやでも」
「この椅子に驚いてるんだろ?それは俺がすごいんじゃないよ、この椅子に使われている素材やこの椅子を作った人たちがすごいんだよ」

俺が何かしたわけじゃないし、と彼は椅子をぽんぽんと手で叩きながら笑った。

「で、でもこの椅子や車だって高いでしょ?そんなの持ってるなんてすごいよ…」
「それも俺がすごいってことにはならないよ。この車を買ったのはうちの親だし、すごいのは作った会社とうちの親の方だ…それからお金かな」
「…そういう考え方できる王子がすごいよ」
「俺が何をどうしたってわけじゃないのに、えばるのはおかしいだろ?」

王子って優しいし親切だし、頭いいし顔いいし、性格はちょっとアホし痛いけど…大人だなと思った。ちょっと尊敬。
自分にどんなに自信があったって、自分の器を分かってなくちゃそんな風に考えることができない。きっと私だったらこんな高そうな車乗れるなんてすごいでしょ、なんて自画自賛するに決まってる。それが誰のおかげで、何がすごいのかを理解しようなんて、私には考えられない。


王子に尊敬のまなざしを送りつつ、今までただのアホだと思ってたことに対しての謝罪を心の中で行っていたら、10階建ての綺麗なマンションの前で車が止まった。藤城君から送られてきたメールに書いてあった住所のマンションの名前と同じことから、ここが目的地らしい。

王子は慣れてる風にマンションのエントランスに入ることなく、マンションの裏に回り人目につかない場所にあった非常階段と書いてあるドアを開ける。

「ここの鍵はいつも開いてるんだよねー」
「へぇ」
「オートロックでもさ、こういうとこから浸入できちゃうんだから安全なんていえないよね」

王子はそう言って笑った。きっと彼の自宅はここよりも優れたセキュリティに守られているんだ。さすが金持ち。

「何でエントランスから行かないの?」
「蓮の奴を驚かしてやろうと思って」

楽しそうにそう言いながら彼はエレベーターのボタンを押した。エレベーターに二人で入る。王子は迷うことなく5階を押した。
藤城君は5階に住んでるのか。5階につくと、王子はこっちだよと私を連れて歩きだした。一番奥の表札のない部屋のインターフォンを押す。どうやらここが藤城君の部屋らしい。しばらくしてガチャとドアが開いた。

「誰かくらい確認しようぜ」
「確認しなくても誰か判ったんだよ」

藤城君の私服を見たの初めてだ。

「おっじゃまー」
「あー、おまあんま散らかすなよ、今から菊崎が来るか、」
「もう着てるよ」
「…………」
「あ、王子が、迎えきてくれて…」

藤城君が初めて私に気づく。びっくりしたのか藤城君はぴくりとも動かない。数秒後やっと意識を取り戻した彼はどうぞあがってと中へ入れてくれた。王子はずっと前に先に部屋に入って勝手に飲み物まで拝借していたけど。

あ、青筋が藤城君のこめかみに…


「てきとーにくつろいでて」
「お、お構いなく」
「お前はもうちょっと構え」
「いやもうこの部屋俺の自室みたいなもんだし」
「帰れ」
「菊崎さんと一緒に帰るし」
「あー、こいつそこのクローゼットに閉じ込めてー」

飲み物取ってくるから、とキッチンへ向かった藤城君を見送る。

「あいつらしいでしょ」
「え、あ、うん…物とか少ないね」
「実はそうじゃないんだよね、物多いよ」
「そうなの?」
「いやあ蓮ってばめっちゃ収納うまいんだよねー一種の才能だよ」

王子はけらけら笑いながら藤城君の部屋について話し出す。やっぱ藤城君と王子って仲いいんだなあ、王子は藤城君のことなんでも知ってるのかな。いろんなことを知ってる。たくさんの藤城君を知ってる王子がやっぱり私はうらやましかった。やっぱ王子はライバルだなあ、なんて結構前に感じていたことを思い出して再確認した。



敬遠


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