王子の明るい髪と整った顔に、原色はよく映える。 じゃっじゃーんと王子が取り出した箱を開けるとびっしりと色とりどりの縁眼鏡が並んでいた。王子のコレクションらしい。 「これ伊達眼鏡?」 「なーに言ってんの菊崎。伊達眼鏡なんて俺の中じゃ外道っすよ」 「え、じゃあいつもはコンタクトだったんだ」 「まーね」 「伊達眼鏡ブーム? そんなのに踊らされてる奴らは眼鏡をかけてる奴の気持ちがわかってんのかね! 俺は大変遺憾だったねうんそのせいで眼鏡をかけてる俺はよく伊達眼鏡扱いされるし伊達じゃねーよ目が悪いから眼鏡かけてんだよ! 流行に流されやすいやつだなんて笑いやがってよー伊達眼鏡かけてるバカどもの視力が爆発しろ!」 「落ち着け伊達眼鏡」 「伊達じゃねーよぉぉぉぉ」 「人の気持ちも考えないで笑うのはひどいな、うんうん」 そう言って藤城君は読んでいた本を閉じて王子の方へ顔を向けた。眉間にいつもより皴を寄せてその表情は真剣そのものだった。王子の目が見開かれる。 「笑ったのあんたじゃん!」 「俺が笑うわけないだろ。俺のこと笑わせられたらすげーよ」 「そういう笑いじゃなくて鼻で笑うのは得意だろーが」 「まーね」 二人はおなじみのやり取りを始めてしまったので私は箱に入っている眼鏡を一つ拝借してかけてみる。 「えっ」 「…ん」 「…あ、ピンクのそれかわいいでしょー」 「王子これほとんど伊達じゃん!」 「だろ」 「いやほら、俺って完璧主義者じゃん? だから視力もいつでもどこでも1.5を確保したくてね」 「裸眼で1.0あるなら眼鏡とかいらないと思わない」 「ていうか王子が完璧主義者だったなんて初耳だよ。いつもあんなだららーってしてるくせに」 「矛盾してんだろ」 「君たちの前でだけでは仮面を外した素の俺でいたいんだよ」 「私としては王子キャラの方が好きだけどなー」 「じゃあ菊崎さんの前でも王子様でいよっかなー」 「調子乗ってんなよ」 「ていうか王子私と視力同じかも…この眼鏡かけたら私も視力あがる」 「あ、そうなの?」 「普段見えない距離まではっきり見える」 「じゃあそれ使っていいよ?」 「いいの?」 「好きなの使ってくれて構わないよ」 生徒会室は王子の自室のようになっていた ここ数日私たちはよく生徒会室に赴いている。別に王子に会いにきているわけじゃないし、生徒会に知り合いが王子以外にいるというわけでもない。 私たちがよく昼休みなどに利用していたプールには今は水泳部の人たちが占領していて、同じくよく利用していた屋上にはカップルが沸いていた。いくら周りを気にしない私たちでもやっぱり気になってくるわけで(得に屋上でいちゃついてるカップルが)、新しいサボり場所でも見つけるかと藤城君が言い出したところで、おなじみの王子がどこからともなく現れそんなことならこの俺にお任せだねと話を勝手に進めて、新しい溜まり場として生徒会室を紹介されてしまったのだ。 最初は不満を漏らしていた藤城君も、冷蔵庫も冷暖房も茶菓子も完備されていて、王子以外にはほとんどこの部屋に入る者がいないということから新しい溜まり場はここで決定ということになってしまった。王子はとても幸せそうに笑っていた。そんな王子に藤城君は、別にお前のためにここに来てやるわけじゃねーからと一刀両断にしていた。王子があまりにも不憫なので「私は王子の眼鏡に用があるからここに来てるから、気にしちゃだめだよ」とフォローに回ったつもりなのだが、そんな私の言葉に王子のHPが更に減らされたらしい。ミスった。 私たちが王子の私室と化している生徒会室に通い始めて早数日、私たちは身を持って屋外と室内の過ごしやすさを感じていた。藤城君は好きなときに読書が出来るしふかふかのソファで寝れるということで喜んでいた。 今も昼休みを王子の部屋(生徒会室)で満喫している。私は先日藤城君が読み終わったという本をソファに座って読んでて(お勧めされた)、藤城君は向かいのソファに寝そべりながらDSをしていて、王子はその隣にある椅子(私たちの横)に片足を立ててもう片方の足をテーブルにかけながら書類とにらめっこしていた。それぞれがそれぞれの世界に浸っているときに、突然藤城君がDSをバタンと若干乱暴にとじて彼にしては珍しく声を荒げながら と睨みをきかせながら私に視線を送った。普段藤城君に睨まれるのは王子であって私じゃなくて、藤城君に過去に睨まれたことがなかった私はどうしたらいいかわからなかった。つーか怖い、藤城君こわい。この人誰だ。いつもの藤城君じゃない…! 「え、な、なに…藤城君? ゲームに負けたの?」 「ちげーよお前だよお前、菊崎に言ってんの」 「私が何かしましたっけ」 「ふざけやがって菊崎が」 「ええっ!」 普段こういう言い方をされるのはあまり言いたくないけど、王子なのに…! 王子も私と同じ事を思ったのか目を見開きながら口を半開きにしていた。 「…………」 「藤城君…?」 藤城君は未だに私を睨んだまま何も口にしない。沈黙を守りながら藤城君は身体を起こしてテーブルに膝をつきながら私の前までグッと距離を縮めた。ちかっちかいっ! 何故か流れ出している緊迫の空気の中藤城君は王子のコレクションボックスを漁り始めた。そしてその中の一つを手に取ると勝手に今私がかけている王子コレクションの一つを外して、藤城君が選んだ眼鏡をかけさせられる。藤城君の眉間の皴はまだ消えない。 「えっと、」 「あー、やっぱこっちよりこっちか」 「蓮、菊崎さんにはこっちじゃね?」 「こっちの薄い方のがいいだろ」 「じゃあこっちの色のが似合うって」 藤城君が何をしたいのか分かった王子は、藤城君の隣に並び王子コレクションボックスを藤城君と同じように覗きこんだ。そして二人であーだこーだ言いながら勝手に眼鏡をかけさせたり外したり…抵抗のつもりで手を出してみたら二人にはじかれた。なんだこの扱い。 「あの、藤城君、王子も…ちょっとやめ、もうなんなの、やめてって、」 「はい…っ!」 ぐ、と顎をつかまれた挙句すごまれてしまった。普段の藤城君はどこへやら。彼にすごまれ出掛かっていた声が喉で止まる。ぎろりと獲物を狙うような獣の目に似ていると思った。正直怖い。無表情の時よりもかなりかーなーり怖い。王子も珍しく怖い。真面目すぎて怖い。 ていうか私にどの眼鏡が似合うかなんて別にどうでもよくないか!? 「これ一番可愛いんじゃない?」 「そうだね。菊崎今超可愛いよ、俺ってセンスいいね」 今のちょっとときめいたんですけど。 ← 41 → |