「藤城君もう帰るの?」 「ん、今日ちょっと用事あって」 いつもは授業が終わってもしばらく自分の席でまったりしている藤城君は、めずらしくHRが終わった後すぐに鞄を手に椅子から腰をあげて準備万端、帰る気満々になっていた。 「ふーん。じゃあ今日は一人かー」 「あんま遅くまで残ってるとまた絡まれんぞ」 「あはは、最近それリアルだよ」 へらへら笑えば、藤城君は「そーね」と口角を引く付かせた。 「そういや用事って? 訊いていいのかわかんないけど」 「サクラちゃんとデートかな」 「出たサクラちゃん。サクラちゃんって一体誰なの」 「彼氏じゃないことは確かだな」 じゃーね、と藤城君は意味深な言葉を残してからいつもみたいにヘッドフォンを装着しながら教室を出て行ってしまった。 サクラちゃんって女の子じゃないの? ここは彼女じゃないって言っておくべきじゃないのか? まさかのそっち系なの? ていうか藤城君って今フリーじゃなかったっけ。 「サクラちゃん…って…」 そこで思い出す。サクラちゃんって王子の第2のあだ名だった。呼んでるのは藤城君だけだけど。王子と用事か。私今日ほんとに一人だな。 別に一人には慣れている。今までほとんど友達なんていなくて、ほとんどの時間を一人で過ごしてきた。家族は別として、だけど。だけど最近は王子や藤城君といる時間が増えて、時間を共有する人が増えた…から、一人ということがとても遠くなっていた。なんか不思議だ。 ちょっと誰かが隣にいてくれただけなのに、もう一人だった自分を思い出せないなんて。一人で学校を出るときいつもどんな事を考えていただろう…。もうそんなことも思い出せないだろうなと自嘲することになると思ったら、案外スラスラっと思い出して面白くなかった。 何で私には友達がいないんだろう 卑屈で自閉的なことばかり考えていた気がする。周りを羨んで、周りの人間なんて死ねばいいと思っていた。 私を仲間に入れてくれないあいつらなんて消えてしまえと、そんな物騒なことを独りごちりながら岐路を辿っていた。 教室に残っている数人の女子の塊がこっちを見ていることに気付いたので、私もそろそろ帰ることにした。また藤城君とか王子のネタを求められてたかられても困る。私の存在価値がそれしかないと思わされる事にわざわざ付き合わされるのはごめんだ。 そそくさと私も教室を後にして、そういえば今日は親がどっちも用事があって帰ってこないことを思い出した。 なんだなんだ皆して用事用事って。用事がない暇人は私だけなのか。私の用事なんてこれからスーパー行ってお弁当買うくらいしかないっつーの。 ← 40 → |