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「#幼馴染」のBL小説を読む
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私は今非常に困っている。意味がわからない。気の弱そうな、私といい勝負といえるくらい教室内では空気扱いされてそうな女の子数人に教室の前で呼び止められ、中庭までご一緒してくださいとお誘いを受けたのだ。え、困るんだけど…と彼女たちに返せば彼女たちは人の目も気にせずに、廊下のど真ん中でお願いしますと頭を下げたのだ。きょとんとする私に、グループの中の一人が私の手をとって、「一緒に来てください、お願いします」と眉を下げながら悲願してきた。その目は有無を言わせないというように真っ直ぐに私を射抜いていた。

そしてこの状況だ。私は何度似たような目にあえばいいのだろうか。いや、今回は前にあったこととは全く別の問題なわけだけど…空気のように地味にひっそりと生きているはずなのに何故こうもいろんな人の目に留まってしまうのだろう。そう考えて、ああそうだとこの時初めて気づいたことがある。

「桐重先輩のことなんですけど」


どうやら私の予想は違ったようだ。私はてっきり、自分の噂がよく流れているようなので藤城君か王子のせいだと思ったのだが、彼女たちから出た名前はまったく違った人物のものだった。そうかキリエさんという人が私の噂の原因なのか。誰だよキリエって。人が噂になるようなことしやがって。見つけたら文句のひとつでも言ってやろうか。

「そのキリエさんがどうかしたんですか?」

彼女たちは、今すぐ私に文句の波を浴びせてやりたいという表情で互いの顔を見合わせた。私は何がなんなのかわからないので、ただ呆然としつつ左手の人差し指で頬をかいているだけだった。
私は今どうすべきなんだと考えていたら、真ん中にいた女の子がきつい目つきをしながら口を開いた。間違いなく彼女は私に何かしらの理由で怒っている。それが藤城君のことでも王子のことでないとしたら、私にはどうすることもできないかもしれない。だって私はこの学校の中ではその二人としか会話なんてしないし、付き合いもないのだから。だからそのキリエという人のことで何かを言われたとしても、私には何の心当たりもなくて、彼女たちの勘違いだろうとしか思えなかった。

「藤城先輩が、あなたと以前から付き合いがあったのは知ってます」
「はあ」
「でも、だからって桐重先輩にまで手を出さなくたっていいじゃないですか!」
「いや、あのさあ…ちょっと確認させてくれる?」
「何ですか」
「まず私と藤城君はただの友人関係なんですよ」
「知ってます。だから先輩たちの間のことは言ってないじゃないですか」

言ってないって…私には言ってるように聞こえるんですけど…。
彼女たちは苛立ちを隠そうともせず、直球で私にあててくる。彼女たちがイライラしてるのはわかるし、その原因もそれとなくわかるけどこれじゃあまりにも理不尽じゃあないのかい。私は何もしていないし、こんなのただの八つ当たりだ。

「私はこの学校で友人は二人しかいないのは知ってる?」

私の返事に彼女たちは、口々に「えっ」と驚いたように声をあげた。自分で言っといてなんだけど、悲しいな。ていうか何で解ってもらうためとはいえ、こんなこと自分の口から暴露しないといけないのかしら。別に気にしてないけど、改めて口にするとなんだか切ない。2人って…2人って…!

「その一人が藤城君なんだけど…私の記憶の中にキリエという人はいないし、私はそんな名前の人と喋ったこともないんだよ。私が手を出すなんておかしいでしょう」

自分たちの勘違いに気づいた?というような顔をしているだろう私に、彼女たちは「あんた何言ってんだよ、ふざけてんの?」という表情で返してきた。何だその顔。私はあんたらのために正直に答えてやってるんだぞ。

「とぼけないでくださいっ!」
「はあ?」
「喋ったことないなんて、白々しい嘘吐かないでください! みんな知ってるんです」

何をだよ


私に覚えがないのに、何で周りの人間が知ってるんだよ。どうなってるんだ。私の偽者でもいるっていうのか…そんなわけないだろ。いや待てよ。私が最近噂されるようになったのは、もしかしたらその偽者のせいで…その偽者とキリエってやつがグルで色々影で何かやってるんだとしたら、つじつまが合う。なんという陰謀だ。しかし、もしそうだとしたら一体何のために…?

「昨日だって、私やほかの女の子たちに見せびらかすように喋ってたじゃないですか!みんな見てるんです!」
「うん、いやそれはね、多分私の予想だけど、それは…私の偽者がキリエって人とグルで…」
「あんたふざけてんのかよ!」
「ふざけてるのはどっちだよ」

真ん中にいた子とは別の子が、ついにきれたらしく敬語も忘れて私を怒鳴る。
失礼にもほどがある。私はいたって大真面目なのだ。



寛容


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