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「#幼馴染」のBL小説を読む
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「身体検査ってだるくないですか」
「だるくないですね」
「えっごめんもう一回」
「俺 健康診断好きだよ」
「身体検査と健康診断の違いについて」
「俺はどっちでも気にしない」
「はあ…え、身体検査好きなの?」
「面倒だけど嫌いじゃないよ」
「珍しい…!」

ジャージの袖を伸ばしながらんーっと藤城君が背を伸ばす。身体検査嫌いじゃないのか。私は授業はつぶれていいけど、かったるいからあんま好きじゃないんだけどな。
男子がぞろぞろと保健室に入っていくのに混じって藤城君の背中もその中に消えた。

仕方ないので私も女子の塊ができているだろう教室へ戻ることにした。あの中に一人でいるとか地獄なんだよなあ。鈴木さんは相変わらず女子のトップのつもりで偉そうだし、田中軍団はいちいち人の顔色伺いながら仲良しなふりするし。さりげなく仲間はずれにされている子がいるのも事実だし。最近は藤城君の名前が女子の間でささやかれることもしばしば。
今まで彼の存在をないものと思ってきた彼女たちの豹変ぶりに、毎度いらいらする。私のほうがずっと前から彼を知っていたのに、何故か彼女たちには私が邪魔な存在として見られている始末。藤城君を好きなら好きでいいけど、私に痛い視線をなげるのはやめていただきたい。

教室に入って携帯を取り出す。わざとしゃべってるんじゃないかってくらい普段より大きな声で話しに花を咲かせている女子の軍団がうざったくて仕方なかった。
携帯を開くと藤城君からメールが来ていた。内容は、裸の男で保健室がいっぱい、気持ち悪い。とのことだった。

とりあえず、「うわあ」とだけ返信しておいた。
女子が王子や藤城君の名前を出して騒ぎ出す。
私のほうにちらりと視線を一瞬だけ向けた女子が、私の名前を話しに持ち出して邪魔じゃないなんだのといい始める。それにならって他もああだこうだ騒ぎ出した。溜息を吐きながら携帯を開く。メールの返事はきてなかったので、アプリで遊ぶことにした。

本人の前で暴言吐くとかほんとなんなんだ。見てみぬ振りで何も言い返せない自分が一番なんなのって感じだけど。結局私もあの子たちと一緒だ。藤城君がいないと強気になれない臆病者の卑怯者。

自己嫌悪に陥ったところで、携帯を持つ手に力が入らなくなった。仕方ないので携帯を閉じる。ああ、もう。

ほんとになんなんだ


「そういうこと言うのやめなよ」

誰か知らないけど、静止の声をかける。

「菊崎さんは藤城君と前から友達なんだから、今更あたしたちが言うことじゃないよ」

ちょっとだけ首を動かして女子の塊を見れば、田中軍団の一人が鈴木さんに困ったような顔を向けながら私の弁護のような発言をしていた。え、なんなの。鈴木さんの眉根が顰められたのを見逃さなかった。おいおいそんな今更私のこと庇ったって鈴木さんの機嫌そこねてターゲットにされるだけだぞ。田中軍団の子が言ったことは正論だけども。すごく正しいのだけどね。いや、何で私が彼女に同情してるんだよ。

「そうだよねー、言われてみれば」

田中軍団の別の子が言い出す。さっきまで私のこととやかく言ってたのになんて流されやすい人だ。

「前から藤城君を知ってたんだよ。あたしらが何か言えたことじゃないよ」

次々とそうだよねと賛同の声が聞こえる。おい、お前ら私抜きで勝手に私のことで盛り上がらないでよ。

「菊崎…さん、さっきから色々言っててごめんね」
「……は、…」

一人が罰の悪そうな顔でこっちを見ながら謝れば周りの女子たちもそれにならう。この人たち大丈夫か?
気づけば私は女子たちの中心にいた。

だからなんなんだ


「ねえ、藤城君たちってお昼どうしてるの?」
「最近桐重君ともよく話してるけどどういう繋がりで?」
「菊崎さんメアド交換しようよーっ」

彼女たちがこっちの事情もお構いなしに口々に藤城君、桐重君と騒ぎ出す。休み時間はどうしてるのとか普段二人でどんな話をしてるのだとか。要するに私から彼の情報を得たいためのフォローだったということだ。
わかってた、わかってたよ。どうせそんなことだってことは。何も期待なんてしてなかったよ。ただ、なんか、悔しくなっただけだ。自分の存在価値が彼の情報を得るためだけのものだということが無償に悲しく思えただけ。ところで桐重って誰なの。そんな人私知らないんだけど。

無言のまま立ち上がって、女子を一瞥する。口元だけ笑っている彼女たちの周りが一瞬静かになった。
はあ、と小さくわざと溜息を彼女たちの前で吐いて教室のドアへ向かう。田中軍団がまたざわつき始めた。うるさいなあ、めんどくさいなあ、田中軍団ほんとなんなの。
そして何で、一番最初に彼女たちの言葉に反論した田中軍団の子は一人輪の外で私を見てるの。
何でそんなかわいそうな目で私を見るの。私はかわいそうなんかじゃないと思ったらなんだか泣きたくなって、すぐに彼女から目をはずして教室から出る。2歩進んだら走り出して屋上へ逃げ込もう。走り出したらきっと、さっきのあの子の顔が浮かぶんだろう。
なんなんだ、ほんとに。



怠慢


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