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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -



私は今、数々の漫画のとある場面を思い出していた。この後の展開はAかBに分かれることが多い。AとBが多いというだけで、CもDも存在しているわけだがここはAとBの2パターンの可能性が高いというわけであって…ってもうええわ。
その場面というのは、ヒロインがゴミ捨てに行った帰りに(またはその途中)知り合いの告白シーンを目撃してしまうという少女マンガでは一種の王道かつありがちなイベント場面である。ちなみに私はゴミを捨てにきたわけではなく、一人でどこかに行ってしまった藤城氏を探していただけであって、ゴミ捨てとかそんなパシリにされてるとかベタ中のベタな展開じゃないということを喜劇作者に代わって主張したい。もうひとつ言うと、連続での王子ネタで申し訳ありません。あ、王子ネタってネタバレしちゃった。
……もうお分かりだと思うが、我らが生徒会長…王子の告白現場に遭遇してしまったのである。遭遇というか目撃してしまったのだ。
とにかくだ。先ほども言った通り、この手のイベントはAかBパターンにわかれるのだ。ちなみに詳細を書くと察していただけてるとは思うが、派手顔で茶髪の女の子が王子を前に顔を赤らめながら「好きなんですけど! 付き合ってくれますか!」 といった具合に告白した直後で今は王子の返事待ちというわけです。プライバシー保護のため一部台詞を改変させてもらった。改変という言葉が適切かどうかはわからないけど。
まずAパターン…「ごめん、気持ちは嬉しいけど…今は色々忙しいし、誰かと付き合う気はないんだ。気持ちは本当に嬉しいんだけど」…二重人格な王子だったらこんな漢字かな。そんで女の子の背中を見送りながら「チッ、テメーみてーな女がこの俺と付き合えるわけねーだろうが。あー、時間無駄にした。カップ麺いくつ作れたと思ってんだし」とか影で言うんだろうな。さすが二重人格だ。王道乙とはまさにこのこと。
そしてBパターンはAの前半部分をカットした感じでしょっぱなから本性全開の腹黒キャラ丸出しで女の子を完膚なきまでにぶちのめすパターンだ。女の子が泣き出したってそんなのお構いなしでズバズバ暴言を続けちゃうんだろうなぁ…うっわ王子最低じゃん(王子のキャラが私の中で捏造されている…)

予想としてはAだけど、個人的にBの方を希望したい。Bの方が見たい。気まずさや罪悪感など気にせずに、木の根に座って耳をすませる。
しばらくして王子が漸く喋りだした。

「ごめんね」

王子の様子を伺ってみると、さすがというか私たちの前でのあほな言動や無表情は微塵も出てなくて、本当に申し訳なさそうに顔をゆがめていた。これが王子モードなんですね。

「………」

訂正しよう。


そして王子に謝罪しておく。彼は私とも藤城君とも違うし、私たちの中では一番良心がある普通の人だった(部分的に普通という意味である)。
本当に申し訳ないと思っているのかもしれない。危うく王子を私のものさしではかってしまうところだった。告白もされたことない私に王子の気持ちがわかる分けないのに。相手の女の子の気持ちなんてもっとわかるわけないのだ。

「あっちは青春してるのね…」

じゃあ私はなんなんだ?
考え始めたころ、王子の口からとんでもない言葉が出て本当に自分はなんなんだろうと真剣に考えようかと思った。実際王子の言葉が耳に入ったときはそれどころじゃなくて頭の中真っ白になったけど。まさかのBパターンなのか!?という淡い期待とかすかな危機感が胸をよぎった。

「俺、彼女いるから…」


………はい? 王子今なんて言った? 彼女いるからごめん君とはお付き合いできませんって言ったの?

マジかよ見たことねえぞ! ここ数日間の王子との出来事が自然と頭の中で再生される。とても彼女いるように…は……いや待てよ。あの容姿であの表面だぞ…? 彼女の1人2人いてもおかしくない。
私たちといる時の王子は本当に痛々しくてアホでバカっぽくて猫背で無表情のいじられキャラで頭弱そうな生徒会長なわけだけども!
その他の場所では背筋伸びてて笑顔が素敵な紳士で普通に親切で秀才っぽくて女の子の憧れの的で忘れていたけれど王子様だった。すっかり王子というあだ名を私が生み出したものだと思い込んでいた。部分的にそうなるけども、私が王子と呼び始めるよりもずっと先に彼は王子様と呼ばれていたんだった。

王子に彼女がいるのは本人が言っているんだから間違いないとして、その彼女はいったいどんな子なんだろう。その彼女の前でも外面で接しているんだろうか。
私がびっくりしてるんだからきっと相手の子はもっとびっくり…もしかしたら絶望してるかもしれない。彼女がいる、なんて想定外のパターンだった。その後王子が何か言っていたけど、ほとんど耳に入ってこなかった。いや、入れないほうが元々いいんだけど。
それにしても王子に彼女か…私って藤城君のこともだけど王子のことだってあんまり知らない。プチショックを受けた私は、女の子の背中を見送ったままその場を動かない王子に声をかけることができなかった。
藤城君と王子は前から面識あるからお互いのことよく知ってるみたいだけど。なんだこの疎外感は…。別に疎外されてるわけじゃないのに。まあ王子情報をまた1つゲットしたということで鎮めておこう。
携帯をいじり始めた王子を残して藤城氏の行方を追うことにした。王子の謎で頭がいっぱいだ。お腹はすいたままだった。

「藤城氏はどこ行ったんだ…」
「菊崎氏の後ろにいますけど」
「…うぇ、のふぉほほふぉぉおっ!」
「何その悲鳴。めっちゃわかりやすい」
「いつからそこに?」
「今。男子トイレの前で考え事とか恥ずかしいからやめろよな」
「心臓バクバクなんですけど! もうちょっと心臓に優しい登場の仕方を希望します」
「だったらトイレ前で止まらないことだな」

パチンと携帯を閉じながらいつもの無表情で藤城君が言う。まったくその通りである。しかも男子トイレの前でだなんて…男子諸君失礼いたしました。藤城君が携帯を持った手で私の背中を押し退ける。さっきの携帯をいじっていた王子をふと思い出した。

「藤城君ずっとトイレにこもってたんですか」
「学校で糞なんて俺はしない」
「……(うんこって言わないあたりが藤城君っぽいわ)」

確かに…うんこ発言する藤城君なんて見たくないけど。喜ぶとしたら作者くらいだね(読んでくれてる人はきっと見たくはないだろう)

「藤城君探してるときにたまたま、王子が告白されてんの見かけた」
「菊崎さん、そういうのは見かけても見なかったとこにして通り過ぎるもんだぜ」
「藤城君だったらどうした?」
「写メってあいつのこと全力でいじるかな」
「黙って立ち聞きしてた私のがましだね。でね、やっぱ王子って王子様なんだねって思った」
「表の顔はいいからね。目の前にいたらそんなん微塵も思わないけど」
「なんというギャップ…。あの顔なら彼女の1人2人普通にいてもおかしくないね」
「まあ、確かに彼女の3人4人いるしね」
「………ん?」
「奴のことなんてどうでもいいけど」
「ちょっちょちょ、藤城君?」
「なに」
「な、なんか…い……なんでもないです」
「ふーん」

今、なんだか聞き間違いであってほしい言葉が耳に届いたんですけど!?



無印


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